2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22520277
|
Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
ウェルズ 恵子 立命館大学, 文学部, 教授 (30206627)
|
Keywords | アフリカ系アメリカ人 / 黒人文学 / アフリカ系アメリカ人文化 / 口頭立化 / 声の文学 / African American Culture / Oral Tradition / Folksongs&Folktales |
Research Abstract |
アフリカ系アメリカ人の民謡の特質は、現実から分離して形成された集団的人格の<声>である。ブルーズでは、アメリカ黒人が処理しきれない精神的負荷を自分から分離させて生み出し育てた陰の人格の<声>を聞くことができる。黒人霊歌は「神の歌」でブルーズは「悪魔の歌」だというのが通俗的な理解だが、両者は奴隷時代の記憶を核にもつ集団的人格を作者とした二種類の作品として読み解ける。ブルーズの歌詞には、「ブルーズ」という名の不透明な人格を持った登場人物がいる。「ブルーズ」は黒人の歌の中で、複数になったり単数になったり、女になったり男になったり、悪魔になったり蛇になったり犬になったりする、変幻自在のお化けのようなものである。神よりはずっと身近で、歌い手の存在証明でさえある。「ブルーズ」は歌い手を圧倒する力を持ち、この力の前で歌い手はひとりの滑稽な敗者を演じ続ける情けない男である。「ブルーズ」は黒人たちの不安や恐怖から生まれているが、緊張を緩和する声をもっている。 音楽文化の移動について、次のような考察が得られた。異文化からの音楽は、何らかの類似性を持つ文化へ伝播していき、不足を補う価値があるとき受容され、弱者への共感は異文化を受け入れる強い動機となる。また娯楽としての音楽は、社会の下層から上層に向けて移動し、社会階層を越境していく。加えて、ある音楽ジャンル本来の性質も境界を移動する原動力の一つとなっているが、ナショナリスティックな性質を持つ芸能が国境を渡るのには、多様な要素がクリアされないと大きな動きにならない。積極的消極的な政治的なバックアップ、文化間の互換性、人の移動、既存の文化より刺激の強い娯楽性、などが備わって初めて、大衆レベルでの音楽文化は広がっていく。現代では、インターネットによっても音楽文化は伝播するが、人の移動による音楽の伝播や文化接触による変化もまた継続すると考えられる。
|
Research Products
(2 results)