2013 Fiscal Year Annual Research Report
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22520279
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
和田 葉子 関西大学, 外国語学部, 教授 (00123547)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | MS Harley 913 / 中英語 / アイルランド / ラテン語 / 諷刺 / パロディ / 老年 / 死 |
Research Abstract |
アイルランドで1330年頃、書かれた London, British Library, MS Harley 913は、アイルランドで書かれたという理由で、多くの優れた作品が収録されているにもかかわらず、海外でも、これまでほとんど研究がなされてこなかった。平成25年度は、老いと死を扱った Elde (“old age”)とErth (“earth”)という2つの作品に焦点を当てた。前者は、老いを嘆く男の独白とも言える韻文で、説教のための真面目な詩がまるでパロディ化したような内容と詩形に生まれ変わっている。非常に機知に富んだ作品である。後者は、中英語とラテン語で書かれ、中世に流行した「死を想え」という当時よく知られていたテーマを展開させ、パロディ化した作品であることが明らかになった。いずれも、面白おかしくアレンジされているようで、実は、聖書はもちろんのこと、西洋古典など、当時の知識人の教養がなければ存分には味わえない作品なので、これらの詩の聴衆は中世の大学の学生や修道士たちであったことが察せられる。 アメリカ合衆国ノースカロライナ大学チャペルヒル校の図書館では、必要な多くの資料を閲覧することができ、関西大学東西学術研究所において共同研究を行っているパトリック・オニール教授とも滞在期間中、MS Harley 913について情報交換することができた。計画通り、オニール教授が大阪大学での講演のため来日した際にもディスカッションする機会を得て有意義であった。夏期休暇中には、この写本が筆写されたアイルランド共和国のウォーターフォード市立図書館において、貴重な資料のコピーを得ることができた。11月に、日本中世英語英文学会全国大会で、そして、平成26年2月には関西大学東西学術研究所研究例会において、これら2つの作品についての発表を行うとともに、論文としてまとめることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績に記した通り、ほぼ平成25年度の計画に沿って、研究調査を行い、成果を発表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
MS Harley 913に収録されている作品の中でも、英語とラテン語の両言語が用いられている作品について、一つの作品の中で、それぞれの言語がどのように関係しているのかを考えるとともに、MS Harley 913の写本全体に視野を広げて、英語、ラテン語、フランス語、いずれかの1言語で書かれている作品同士の関わりはどのようであるかを調査する。また、作品によって選ばれる言語がどのように異なるのか、何故、その言語が選ばれたのかについても考察する。それによって、一見、様々なジャンルの作品を雑然と集められたかのように思われるMS Harley 913の編纂者の意図と、編纂者すなわち写字生の人間像や、読者/聴衆がどんな人々であったのかが、さらに明らかに見えてくるであろう。 夏季休暇を利用して、この写本を所蔵しているイギリスの大英図書館の写本室で直接、写本を手に取って、マイクロフィルムではわかり難いテキスト自体以外の書き込みやパンクチュエーションなどを最終調査する。貴重図書の閲覧には、ケンブリッジ大学図書館と、この写本が書かれたアイルランドのウォーターフォード市立図書館、そしてアイルランド国立図書館を利用する。著作権の許す範囲でできるだけ多くの資料をA4サイズでコピーし、帰国後も参照できるように整理して持ち帰る。また、現地では、中世研究者と情報交換やディスカッションができるように、前もって連絡を取っておく。研究成果は学会発表と刊行の形で発表する。英語で発表することによって海外にも発信できるようにする。
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