2011 Fiscal Year Annual Research Report
近現代のスコットランド詩におけるナショナル・アイデンティティとバラッド詩の関わり
Project/Area Number |
22520282
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Research Institution | Kyushu Kyoritsu University |
Principal Investigator |
中島 久代 九州共立大学, 経済学部, 教授 (90227778)
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Keywords | バラッド詩 / 伝承バラッド / Walter Scott / John Davidson / Edwin Muir / Thomas Rhymer / ナショナル・アイデンティティ |
Research Abstract |
1.アイデンティティは共同体の構成員が抱くイメージであるというAndersonとHallの定義を足がかりとして、そのイメージを"Thomas Rhymer"にとり、Walter Scott、John Davidson、Edwin Muirのバラッド詩の中のトマス像とアイデンティティとの関わりを考察した。中世文学ではトマスはひとつの場所のアイデンティティに固定されない存在であったことが検証されているが、スコットのバラッド詩は場所の特定と王権擁護のストーリーによって詩人自身のアイデンティティ擁護の姿勢を明確に示した。しかし、スコットのトマスを模倣したデイヴィッドソンは、ゴシック的な描写によって詩人自身のアイデンティティの揺れと不安をトマス像に投影し、さらに、ロマン派的なトマス像を模倣したミュアは、呪縛されたトマスとスコットランド批判を語ってアイデンティティへの懐疑を示した。「うたびとトマス」はスコティッシュ・アイデンティティの擁護から懐疑への推移を象徴する存在となっていることを、2011年9月の日本カレドニア学会で発表した。 2.本課題遂行の前提としての「バラッド詩の系譜」について、review paper"The Genealogy of English and Scottish Literary Balladry from the Early Eighteenth Century to the Nineteenth Century"を所属大学の研究紀要に発表した。Friedman、Laws、Yamanakaの3名の研究が20世紀にバラッド詩研究を推進したこと、18世紀初頭の女性詩人Wardlawによる系譜のさきがけとしての"Hardyknute"、ロマン派詩人WordsworthとKeatsの感傷的傾向、ヴィクトリア朝のTennyson、Rossettiのリフレインの技巧とTrailのパロディバラッドなどについて概論を述べ、19世紀までのバラッド詩の系譜をまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
主として社会学で議論されるアイデンティティの問題を文学でどのように援用するのかの手法の確定、および、詩とアイデンティティに関する先行研究の情報収集に予想以上の時間がかかったため、(3)「やや遅れている」を達成度とする。
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Strategy for Future Research Activity |
研究開始当初のスケジュールでは、平成24年度は (1)19世紀終盤のDavidsonと労働者詩人たちのバラッド詩の関わり (2)Muirのナショナル・アイデンティティとバラッド詩 (3)MacDiarmidのナショナル・アイデンティティと伝承バラッド という3つの視点からの論考を予定していたが、本課題のまとめの方向性が見通せる現段階となって、Edwin Muirのバラッド詩とアイデンティティの考察がまとめの方向性にふさわしいと判断できるため、(2)を中心とした研究を推進し、(1)と(3)については補足的な内容とすることになった。
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Research Products
(3 results)