2011 Fiscal Year Annual Research Report
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22520285
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Research Institution | Nagano Prefectural College |
Principal Investigator |
高梨 良夫 長野県短期大学, 多文化コミュニケーション学科, 教授 (50163225)
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Keywords | R.W.Emerson / アメリカ・ロマン主義文学 / アメリカ思想 / 進化論 / プラグマティズム / ニーチェ / 自然 / 科学 |
Research Abstract |
2011年4月には研究書『エマソンの思想の形成と展開』(金星堂)を出版した。本書は「週刊読書人」(8月12日号)の書評欄で書評の対象となって紹介され、また本書に基づいた博士論文審査を東洋大学大学院で受け、2012年3月に博士(文学)の学位を授与された。本書は長年のエマソン研究の成果をまとめたもので、本研究課題のみに限定された研究成果とは言えないが、序章第4節のエマソンの中年期から後年期にかけての自然観について、第2章第3節の「慈愛に満ちた動き」(beneficient tendency)について、第3章第3節のエマソンの「大霊」(Over-Soul)とニーチェの「超人」(Ubermensh)について等の箇所は、本研究課題と直接的に関係している。これらの箇所では、中年期から後年期のエマソンが、進化論的自然観や南北の対立が激化してゆく1850年代のアメリカ社会の情勢の影響を受けながら、青年期の超越主義的(Transcendental)な「自己」(Self)中心主義から脱却していった過程を詳細に論述した。そしてエマソンが中後年期においては、「自己」を万物の中心に位置し、精神の自由を運命と対立するものとしてとらえるのではなく、運命を必然的なものとして自らの意志で受容し、また愛(love)を宇宙全体に調和と統一性を与える「力」(power)としてとらえている点を指摘した。 さらに夏休みを利用して、1か月間ハーヴァード大学において調査・研究する機会を持ち、資料収集を行った。特にエマソン研究の権威Lawrence Buellハーヴァード大学英文科教授、ピューリタニズム研究の権威David Hallハーヴァード大学神学部教授と意見交換が出来たことは大変有益であった。2012年1月からは、所属しているアメリカのエマソン学会の理事に推挙され、アメリカのエマソン研究者と従来以上にエマソン研究についての意見交換を頻繁に行う機会を持てるようになってきている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
財団法人アメリカ研究振興会から学術図書出版助成を受けてエマソンの研究書を出版することが出来、また書評専門誌「週刊読書人」や,「アメリカ学会会報」等で書評の対象図書として紹介され、さらに博士論文審査を受けた結果、博士(文学)の学位を授与されたことは当初の計画以上であった。またアメリカのエマソン学会の理事に推挙され、従来以上にアメリカのエマソン研究者との意見交換の機会を持てるようになったことも予期せぬ進展であった。しかしながら研究成果はエマソンの研究書の発刊のみで、その他の研究成果を発表出来なかったため(2)とする。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題であるエマソンの後年期を中心とした思想の展開を、(1)自然観の展開、(2)プラグマティズムとの関係、(3)ニーチェの思想・文学との関係、(4)南北戦争前後のアメリカ社会との関わり等の視点から、その重要性と現代的な意義を明らかにしながら解明するという当初の計画を、予定通り今後も続けてみたい。エマソンの日記、エッセイ、講演、書簡等に基づきながら、これまでの研究をさらに深化させれば、計画通りの成果を収めることが出来ると考えている。ただし当初は本年度のみの計画であったが、可能ならば、再度ハーヴァード大学で調査・研究の機会を持ち、アメリカのエマソン研究者と意見交換の機会を持ち、交流を深めたいと願っている。
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