2010 Fiscal Year Annual Research Report
メランコリーと幼年時代――フランス近代文学の根源を求めて
Project/Area Number |
22520299
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
塚本 昌則 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (90242081)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
月村 辰雄 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (50143342)
中地 義和 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (50188942)
野崎 歓 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 準教授 (60218310)
畑 浩一郎 聖心女子大学, 文学部, 講師 (20514574)
|
Keywords | メランコリー / 幼年時代 / トポス / 修辞学 / メディア |
Research Abstract |
本研究は、「メランコリー」と「幼年時代」という主題の分析を通して、フランス近代文学を、従来の「絶え間ない再開の美学」とは異なった視点から把握することを目指すものである。本年度は、クレオールの幼年時代、さらに写真とメランコリーという視点から、研究をより深めることができた。具体的に次の視点が得られた。 1.シャモワゾーの小説『カリブ海偽典』(2002)の翻訳・紹介を通して、カリブ海のフランス語圏文学において幼年時代がもつ特殊な意味を検討した。「天才とは自由に見出された幼年時代である」-このボードレールの言葉が典型的に示しているように、近代性moderniteの核心には、つねに幼年時代の価値が見出されてきた。始まりが、神的な世界ではなく、個々の人間の生の水準で捉えられるために、その根源をなす幼年時が重要性を帯びるのである。シャモワゾーの小説には、自己の起源神話ともいうべきこの幼年時代が、始めから取り返しがつかないほど汚され、無垢なものと呼べない時に、それでも価値を持ち得るのかという問いかけがある。今まさに世界が始まろうとしている感覚は、歴史・社会・状況から受けた傷跡を浄め、身体の組織を再生し、新たに生きる気力をあたえる源泉となり得る、というのがシャモワゾーの考えである。今年度の研究では、この幼年時代というトポスが、「愚かさ」、「旅」あるいは「東方紀行」といったトポスとも緊密に結びついていることを確認した。 2.メランコリーについては、「20世紀フランス文学と写真」と題するワークショップ(東大本郷キャンパス、2010年11月16日)の枠内で、いくつかの考察を行った。20世紀に入って隆盛をむかえる「写真小説」の核心には、写真がある人の存在と同時に、その人の不在を表しているという発見がある。この特殊なイメージのあり方は、それゆえメランコリーというトポスの特権的な表現手段となった。
|
Research Products
(18 results)