2010 Fiscal Year Annual Research Report
19世紀フランス文学・音楽における自我と世界の表象
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22520301
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
博多 かおる 東京外国語大学, 大学院・総合国際学研究院, 准教授 (60368446)
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Keywords | フランス文学 / 音楽論 / 19世紀 / 自我 / 世界像 / 共同体 / 鐘 |
Research Abstract |
鐘の音と共同体の関わりについて、歴史的資料・研究書(フランス国立図書館所蔵の聴覚資料・19世紀刊行物、アラン・コルバン『音の風景』)等を通じて調査した。また19世紀フランス文学(特にヴィクトル・ユゴー、セナンクール、ピエール・ロチらの小説)、及び重要と考えられる音楽作品を対象に、鐘の音について分析を行った。音楽作品については、鐘の音に注目した作曲家であり、19世紀前半から後半にかけて複数の鐘にまつわる作品を書いている作曲家リストの作品、また鐘の音を革新的な方法で音楽作品に取り込んだベルリオーズの『幻想交響曲』、シューマンの『パピヨン』等を研究の中心に据えた。 鐘の音が誕生、結婚、死などを告げ、人間の生活のリズムを刻み、共同体の人々の聴覚に密着し、感情的な絆を生み出していたことは歴史家に指摘されている。本研究は、そうした絆が危機を迎えた19世紀において、鐘へのノスタルジーが強まること、ロマン派的な想像力への信頼によって、想像の領域に鐘の響きを移し替える作業が行われたことを明らかにした。さらにロマン派は、グロテスクなものを称揚する中で、鐘の響きやそれが表す力をフィクションの領域に引用し、パロディー化して、聖なるものや日常と対峙する力(悪魔や異空間)と大胆に関連づけた。さらには、鐘の音が芸術作品の中で情動や風景描写と深く結びついていた時期から、鐘が単なるモチーフ、音の模様となり、さまざまな音の効果を探求するために用いられた時期への変化が読み取れることも注目に値する。19世紀後半から、鐘の音の象徴的な役割も強調されていく。鐘の音を通して、ロマン派的な感情の吐露や自我の風景への投影から、音の響きの「印象派的」な探求へ、さらに鐘をめぐる象徴の発達へという移行を読み取ることができる。
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