2013 Fiscal Year Annual Research Report
ウェールズ国文学の誕生から見る国民国家形成期における口承の位置づけと民衆観の変遷
Project/Area Number |
22520304
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
森野 聡子 静岡大学, 情報学研究科, 教授 (90213040)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | マビノーギオン / 印欧比較神話 / ジョン・リース / ケルト学 / ウェールズ |
Research Abstract |
本研究は、19世紀の国民国家形成時にブリテンの少数言語地域(ケルト周縁地域)でナショナリズムと連動して起こった「国文学観」の変遷と制度化を対象とするものである。18世紀におけるスコットランドの「オシアン」詩作英訳の真贋問題と、同時期のウェールズにおける国文学意識を比較することで、本研究では、この間のブリテン周縁地域における文化的ナショナリズムの焦点は、国文学の根幹を「口承の存続=民衆の記憶」に見るか、「写本の存続=知識層の文化制度」に帰すかという問題にあると措定した。 4年の研究期間のうち、最初の3年間では、19世紀において、中世の宮廷詩人バルド詩歌から散文物語「マビノーギオン」へとウェールズの国文学の焦点が移っていった過程と、その社会的・文化的背景を明らかにした。それを受けて、平成25年度には、インド=ヨーロッパ比較言語学の発展による「汎ヨーロッパ」という概念の浸透とともに、「マビノーギオン」が単にウェールズの国文学としてだけでなく、インド=ヨーロッパ語族の「神話」として受容されていく経緯と背景を考察した。 19世紀にヨーロッパで勃興するインド=ヨーロッパ語族研究は、ヨーロッパの諸言語の「祖語」を明らかにする比較言語学(philology) と、ヨーロッパ文明の始原としての信仰体系を復元するという比較神話学の要素を合わせ持つ。本研究では、インド=ヨーロッパ語族研究を牽引したウェールズ生まれのJohn Rhŷs(オックスフォード大学初代ケルト学教授)の著作を分析することで、インド=ヨーロッパ語族において、特別な位置づけが「ケルト」に付与されたことを指摘した。これは、20世紀後半以来、ケルト民族を「ヨーロッパの始原・父祖」とみなす言説のルーツといってよい。Max Müller の「太陽神話」とともに忘却された Rhŷsの研究の今日的意義を明らかにできたと考える。
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Current Status of Research Progress |
Reason
25年度が最終年度であるため、記入しない。
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Strategy for Future Research Activity |
25年度が最終年度であるため、記入しない。
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Research Products
(2 results)