2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22520307
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
高橋 宏幸 京都大学, 文学研究科, 教授 (30188049)
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Keywords | 西洋古典 / ラテン文学 / ローマ人 / 永遠のローマ / ウェルギリウス / ユーリウス・カエサル |
Research Abstract |
本研究は共和政末期からアウグストゥス帝治世にかけて現われてくる「ローマ人」像について、ラテン文学作品を中心とする関連文献を検討し、(1)その諸相を析出すること、(2)形成過程を観察すること、(3)支柱をなす理念を把握すること、(4)各作家が「ローマ人」を提示する表現手法を明らかにすることを目的とする。そのために、(1)カエサル『ガリア戦記』からウェルギリウス『アエネーイス』へという方向性、(2)ローマ共和政末期の歴史意識の高まりの中で生まれてきた「永遠のローマ」の理念、という二つを重要な着眼点として掲げた。 本年度の成果の第一は、『ガリア戦記』に現れる出来事の叙述パターンや表現要素が『アエネーイス』に取り入れられていると考えられる箇所が多く見出され、しかも、作品展開に重要な働きをなしていることを観察したことである([学会発表]の項参照),第二に、ウェレイユス・パテルクルスによるローマ概略史について初の邦後訳([図書]の項参照)を刊行できた,この著作はローマ建都から作者の同時代、後30年までを2巻にまとめたものだが、その記述から作者の時代におけるローマの歴史に対する見方が窺え、アウグストゥス帝治下との意識の差が見て取れた,第三に、昨年度の実績報告書にも記したウェルギリウス『アエネーイス』の運命観についての学会発表を論文として公表した[論文]の項参照)。公表に当たっては、問題を作品の結末場面に集約させる形で論点を明確にした,『アエネーイス』に関してはまた、英雄の美徳ピエタースに「相対性」と「継承性」が認められること、この二つの性質が作品の主題『ローマ建国」に深く関わることを公開講演した(於慶應大学、H23.10.1)。加えて、カ,エサル『内乱記」後の出来事を記す未邦訳の作品、作者不詳『アレクサンドリア戦記』の試訳作業を8割がた終了できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究にとって重要な作品であるカエサル自身によるものと関連する作者未詳の著作、および、ウェルギリウス『アエネーイス』について作業を進めることができている。とくに、『ガリア戦記』と『アエネーイス』の関連性を観察、検討できた点が評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
カエサルに関連する著作についてより広く、深く考究を進める。基礎的作業として、『アレクサンドリア戦記』に続いて、未邦訳の作品『ヒスパニア戦記』『アフリカ戦記』の試訳を行う,並行して、これらの作品に現れる叙述バターンや表現手法、また、記述の背景にある価値観、世界観を観察する。観察結果をもとに、アウグストゥス治下の諸作品との比較検討を行う。
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