2010 Fiscal Year Annual Research Report
諸学の相関から見た啓蒙主義詩学史-「模倣の詩学」の情動面を中心に-
Project/Area Number |
22520313
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
福田 覚 大阪大学, 大学院・言語文化研究科, 准教授 (40252407)
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Keywords | 模倣 / 詩学 / 情動論 / ドイツ |
Research Abstract |
初年度となる平成22年度は、まず、文献収集のための書誌情報の整備を始めた。対象は、18世紀ドイツにおける詩学、美学、医学、修辞学、哲学といった分野の専門書が中心で、そこにそれについての2次文献が加わる形となった。また、実際の文献収集にも着手した。9月にベルリンにおいて集中的な調査・収集を行った他、ドイツからの文献購入や国内所蔵資料の取り寄せによって、研究の基盤整備を進めた。 理論面では、啓蒙主義時代の「模倣の詩学」の変化について、詩学のテクストを並置して系譜を描くのではなく、諸学の相関とその構造的転換という次元にまで掘り下げて記述する方向性の下、特に「模倣の詩学」の情動面に光を当てる出発点として、この時代には、理性によって情念を抑制しようとする哲学的な情念論もあれば、人の心を動かすために情念を巧みに活用しようとする修辞学的な情念論もあったことをまず視野に入れた上で、「カタルシス」という形で情念の浄化を行う悲劇の情動論的契機の位置付けを探ろうとした。「カタルシス」は本来医学用語で、こうした情動操作の効果は治癒的と言えるが、書誌的な確認により、この時代の情動論が心身問題というマターを中心に医学の分野に浸透していることや、近年そうした医学的な情動論が注目を集め、それが<人間学の誕生>という物語に還元される形で研究されてきていることが明確になってきた。そのため、詩学や関連する諸学の情動論について論点を整理し、その豊かな具体相を明らかにすることで、模倣の詩学は近代美学に取って代わられたとする<近代美学の誕生>という物語への還元とともに、こうした<人間学の誕生>という物語への還元を同時に相対化することが本研究の進むべき方向性ではないかとの仮説的見解に到った。(このことを5月刊行の『ドイツ啓蒙主義研究』に掲載する論文で実例とともに述べるべく現在準備中である。)
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