2012 Fiscal Year Annual Research Report
パスカルの時代における蓋然性と確実性に関する多角的研究
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22520316
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
永瀬 春男 岡山大学, 社会文化科学研究科, 教授 (60135100)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 仏文学 / パスカル / パンセ / 蓋然性 |
Research Abstract |
昨年度に続き、蓋然性と確実性にかかわる文献調査に努め、同じ問題意識からパスカルの著述群、特に今年度は計算機関連文書の読み直しと、計算機製作体験の再検討を行なった。その具体的成果としては、論文「計算機から『パンセ』へ―身体、習慣、機械―(1)」を公刊し、また、「パスカルにおける計算機開発の思想的意味」と題する研究発表を行なった。 論文では、計算機開発の意味を、計算の身体化が演算結果の確実性を担保するという計算機の逆説、および秩序と侵犯という主題の発見に求め、次に、計算機と身体および習慣の関係を手がかりとして、『パンセ』における信仰獲得の手段としての習慣・理性・霊感の問題に接近を試みた。計算機においても護教論においても、元来蓋然的なものであるはずの身体と習慣が、理性以上に確実な演算結果と真正な信仰を与え得るという逆説に、我々は出会うことになる。 口頭発表では、やや異なる観点から、秩序と侵犯、生半可な識者の批判、民衆の意見の健全、現象の理由等々、後年の重要なテーマ・用語・概念の多くが、既に最初期の活動たる計算機製作過程に見出されることを示し、この発明が決して孤立した一閉鎖領域を作るのではなく、パスカル思想の発展進化のなかに位置づけうるものであることを、従来の私見を新たな知見の追加によって補強しつつ、一層明確に主張した。ここでも、計算機の使用者である民衆の判断が、一見不確実に見えて、その実、「理性的」な識者の意見より健全であるという逆説が指摘できる。 こうした諸点を明らかにする一方、フランス国立図書館において約40日間の資料調査を行い、同時代のテクストに見える「思慮」概念の使用を検討することで、パスカルにおける蓋然性と確実性の思想的背景の理解を深めるべく努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「確実性」と「蓋然性」という課題の大きな枠組みのなかで、計算機開発の思想的意義を再考し、この発明の過程で発見された用語・概念と主著『パンセ』との主題的連関を探るなど、検討を一歩先へ進めえた。一方で、同時代の政治論・護教論については、膨大な数の文献を相手に、検討項目がなお残っている点において、達成度を(2)とした。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度に続き、夏季にフランス国立図書館での資料探索を再度行い、パスカルの時代の思想的背景の理解を深める予定である。また、近年刊行が続いている、17世紀における「思慮」概念に関する研究文献に引き続き学びつつ、課題把握の深化に努める。得られた成果は、論文発表(あるいは口頭発表)を通して世に問い、本課題のまとめの年としたい。
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Research Products
(2 results)