2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22520362
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
樋口 大祐 神戸大学, 大学院・人文学研究科, 准教授 (90324889)
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Keywords | 漢文文化圏 / 歴史叙述 / 伝 / 王権 / 軍記 |
Research Abstract |
平成23年度は前年度の研究成果を踏まえて、朝鮮・ヴェトナム・琉球等の「伝」文学テクストを収集した。朝鮮・ヴェトナムに関しては、平成22年度に両国を訪問して資料収集の基本的方向性を把握し得たため、23年度においては特に収集のための出張調査は行なわず、両国の知人・出版社等を通じて資料を入手する方法をとり、もっぱら収集した資料の整理・分析・検討に精力を集中した。 琉球については4月に東京で行なわれた「説話文学会」の琉球の歴史叙述に関する例会にコメンテイターとして参加し、銘苅子伝説・無漏渓伝説や那覇の辻遊廓の起源伝説、また『中山世鑑』の中国古典引用に関する議論に関わった。また、琉球の「伝」的資料に関する整備状況について、多数の研究者と意見交換を行なった。 研究成果としては、日本屈指の歴史叙述である『平家物語』における検非違使関連の説話を分析し、歴史叙述における情報の集積地、説話の発祥地としての治安維持権力の役割、都市における治安維持権力の両義的位置づけについて、具体的な検非違使個人の伝紀的事実に即して検討を行なった。日本の軍記物語における検非違使の役割は、中国・ヴェトナム・琉球等の裁判官小説とも類縁性を有しており、また各国における地方志における情報集積過程における治安維持権力の役割とも重なる面が多い。その意味で、東アジアにおける「伝」文学の形成において、各地域における「検非違使」的なるものを(芸能者や被差別者との関連も含め)より深く検討することが必要になるだろう、との見通しを得ている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
東アジア「伝」文学の比較文学的考察に必要な資料の収集については順調に進んでいる。ただし、その分析・検討の進め方についてはまだ充分に有効な手法を開発し得たとは言いきれない。この点が今後の課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
収集した「伝」文学に関する資料を分析・検討する有効な手法を開発するため、「伝」文学を含むより大きなカテゴリーであり「歴史叙述」のあり方についての比較文学的研究の視点を導入する予定である。この点についても参考するに足る先行研究は少ないが、各地域における「武人」のアイデンティティ、「侠」-「芸能」者のアイデンティティと歴史的想像力の関係性を中心に検討を進める予定である。 また、台湾・中国等における資料収集も引き続き行なう予定である。
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