2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22520362
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
樋口 大祐 神戸大学, その他の研究科, 准教授 (90324889)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 歴史叙述 / 伝記 |
Research Abstract |
平成24年度は海外では台湾を中心に資料調査を行い、国家図書館、台湾大学図書館等においていわゆる「演義」ジャンルに分類される歴史叙述を大量に収集した。特に中華民国成立以後の近代史を「演義」形式で叙述するテキスト群は、中国語圏における伝統的な歴史的想像力のあり方の現代的変貌のあり方を検討するうえで極めて興味深いあり方を見せており、少なからぬ研究成果が今後に期待できると思われる。また、ヴェトナムにおける漢文歴史文学の展開の歴史についての資料及び中国語圏における研究成果を収集することができた。 また、これまでは比較的手薄だったジェンダー研究的な視点を導入し、歴史叙述や「演義」的想像力、「侠」のタイプ、鎮魂芸能等の問題系におけるジェンダーバランスのあり方についても視野を広めることができた。 論文としては、平成24年度以前の研究成果をもふまえつつ、中世日本における複数の公共圏のあり方に関する論考、16世紀畿内の歴史叙述『細川両家記』に関する論考、16世紀の海港都市・堺と統一権力の関係性に関する論考、宮崎滔天の小説『明治国姓爺』における中国的想像力等の影響に関する論考、等を執筆した。また、平成24年6月の説話文学会50周年記念大会においてコメンテイターとして出席し、日本の歴史叙述における16世紀のもつ画期性について発言した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定であった中国、台湾、ヴェトナム、琉球(沖縄)における資料収集はおおむね順調に進行しており、今後は収集した資料を分析検討する段階に入っている。韓国の資料収集についてはまだ未開拓の領域が多く、今後の課題である。日本については、他の地域よりも資料収集が遅れているが、これは平成25年度において挽回することが十分可能であると判断しうる。 また、分析検討の過程で、女性の「伝」的記述に関する比較研究の方法について一定の展望を得ることができたことは平成24年度の収穫の一つである。この点は25年度以降、より積極的に追及していきたい点の一つであり、特に各地域におけるジェンダー構成と「侠」の関係性のあり方の比較研究は、本研究の重要な一部分となることが期待できる。 以上の理由により、本研究はまずまず順調に進展していると判断することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
上述したように、平成25年度においては従来各地域で収集した資料を比較検討しつつ、各地域における歴史叙述に表現された歴史的想像力のあり方について比較検討を進める(具体的には、19世紀の琉球処分の一部始終を叙述した『琉球見聞録』や、20世紀の台湾出身者である陳舜臣や邱永漢が日本語で書いた小説を考察の対象とする研究を始めている)。 また、ジェンダー研究の視点を導入して、各地域における女性表象と「侠」、電気形式、鎮魂芸能等の問題系との関係性についてより深く検討する。特に日本に関しては、それらの前近代の文化伝統が近現代文学においてどう換骨奪胎され、新たな表現を生み出しているかということについても探求を開始する予定である(その成果の一部は、6月に北京で開催される国際会議において報告する予定である)。
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