2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22520362
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
樋口 大祐 神戸大学, その他の研究科, 准教授 (90324889)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 歴史叙述 / 漢文文化圏 / 伝 / 王権 / ジェンダー |
Research Abstract |
平成25年度は海外では中国、韓国、ヴェトナム、台湾で資料調査を行い、18・19世紀の被植民地化・被半植民地化前後の近代史に関する歴史叙述と人物伝記を中心に資料収集を行った。 また、昨年まで以上にジェンダー的視点を導入し、天下国家に関わる転換期が男性伝記において占める存在の大きさと、女性伝記において占める役割の相対的小ささの間の落差を確認することができた。これは、女性にとって人生の重要な転換点が、必ずしも社会的に可視化されていないことを示している。このことは、「人生の意味」をめぐるジェンダー構制のあり方をめぐる、さまざまな問題点を示しているように思われる。 また、女性の伝記を語る語り手の性別(男性である場合と女性である場合)がもたらす結果の大きさについても、さまざまな具体例に即して考察を深化させることができた。 論文としては、平成24年度以前の研究成果を踏まえつつ、19世紀のいわゆる「琉球処分」事件をめぐる琉球側の歴史叙述である『琉球見聞録』に関する論考を発表した。また、平成25年6月に北京日本学研究センターで行われた国際シンポジウムにおいて、日本の女性を主人公とする説話における「語り手=男性による領有化」の問題について研究報告を行った。また、同年12月にはハノイ国家大学における国際シンポジウムにおいて、マンガ『ONE PIECE』を『水滸伝』『義経記』等のアジアの伝記的叙事文学の系譜に位置づける試みを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
歴史叙述研究における前近代と近代、および歴史叙述研究とジェンダー研究を結合するという新しい試みに一定の見通しをつけることができたと考える。 ただし、掘り下げるべき課題(テーマ)、深めるべき論点は山積しており、今後引き続き研究の進展に務める必要があると認められる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は昨年までに獲得した研究成果を踏まえつつ、近現代東アジア各地域における歴史語りおよび自己語り(自伝)の傾向と多元性について、一定以上の展望を得ることを目指す。 近代日本の幕末維新から第一次大戦終結に至る時期の公的歴史語りおよび伝記類(自己語り・回想録)、琉球・朝鮮半島・中国の同時期の歴史語りと伝記類を広く収集する。 そして、①公的歴史語りの展開の基盤となる論点の共通性と差異、②公的歴史語りと自己語り等の伝記類の並行性と対抗関係、③伝記類相互の共通性と差異、等の論点について、ジェンダーおよびコロニアルな要素の重要性を念頭におきつつ分析検討し、その相互関係のあり方を解明する。
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