2011 Fiscal Year Annual Research Report
早期辞賦の伝承と「作者」をめぐる伝説―司馬相如・宋玉を中心に―
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22520363
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
谷口 洋 奈良女子大学, 大学院・人間文化研究科, 准教授 (40278437)
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Keywords | 中国文学 / 辞賦 / 『文選』 / 司馬相如 / 宋玉 / 伝説 |
Research Abstract |
本年度は、1.司馬相如の作品をめぐる伝承 2.『文選』における「作者」と「作品」の2点について研究を進め、学会発表を行った。 1.については、その最も早い記録である『史記』司馬相如列伝を検証した。相如が戦国の遊説家藺相如にあやかって改名した事実には、戦国の遊説家が舌先三寸で出世した庶民的ヒーローとしてとらえられていた当時の気風が伺える。相如自身も、主君に献策する遊説家のように、状況に応じて次々に皇帝に作品を奉るが、それは戦国時代の政治的アクチュアリティを欠いたキッチュであり、伝承ではその面がさらに増幅される。卓文君との恋愛譚も、貧士が自らの策によって地位を得るという遊説家の立身出世譚をふまえつつ、智・勇・義という遊説家の価値を、金・色・情というより庶民的な価値に置き換えたものとして理解できる。さらに、相如が晩年持病に苦しんだ事実は、政治の中枢に参与できない挫折を隠蔽するのみならず、彼の特異な言語能力を保証する一種のスティグマとして作用する。このような通俗性と神秘性を帯びた司馬相如像が、彼の没後まもなく形成されていたのである。 2.については、最も根源的な問題を内包する宋玉の場合について考察した。『文選』でその作とされる「対楚王問」が劉向『新序』では宋玉の逸話として収められるが、そもそも宋玉において、その伝説と「作品」とは本来不可分であり、「宋玉文献」としか呼びようのないものであった。のちに史・.子・集三家が分立し、各々がそれぞれの立場で文献を整理したことが、今日見るような「混乱」をもたらしたにすぎない。ことに魏晋以降、文学と文学者を系譜づける動きの中で、宋玉とその作品は様々な文学の源流に位置づけられ、『文選』に見るような姿に定着したのである。 なお本年度も、引き続き大学院生の協力を得て、辞賦研究文献目録のための資料収集を行い、基礎的データをほぼ収集した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの2年間で宋玉に関する学会発表2件、司馬相如に関する学会発表及び論文公刊各1件を行い、それぞれについて一定の研究成果を出している。また、辞賦研究文献目録についても、基礎的なデータをほぼ収集し、残り2年での完成に一定のめどが立っている。
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Strategy for Future Research Activity |
六朝期における司馬相如像の展開、宋玉と司馬相如の場合の比較を通した「作者」と「作品」の関係についての総論的考察など、残された課題について考察を進める。成果発表を推進するため、国際学会等に積極的に参加する。また辞賦研究文献目録の完成に向け、引き続き大学院生の協力を得る。
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Research Products
(3 results)