2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22520364
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
岡本 不二明 岡山大学, 大学院・社会文化科学研究科, 教授 (70152353)
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Keywords | 南柯太守伝 / 螻蟻 / 黄庭堅 / 枕中記 / 夢 |
Research Abstract |
本研究の目的である、唐代伝奇が宋詩にあたえた思想的文学的影響について、本年度は主として「南柯太守伝」を取り上げ、二つの方向から宋代詩人の受容状況を分析した。 一つは、杜甫「謁文公上方詩」にみえる荘子的な哲学が、「南何太守伝」の現世の栄華のむなしさを説いた主題と関連づけて、多くの宋代の詩詞に取り込まれている状況を、詩語のレベルで具体的に解析し、論文「王侯と螻蟻-昆虫たちの文学誌-」にまとめた。この原因には、北宋の黄庭堅や江西詩派が、杜甫を崇拝し一字一句を模倣する風潮を巻き起こしたことがあると考えられるが、さらに今後具体的に論証していく予定である。 あと一つは、「枕中記」と「南何太守伝」のテーマにかかわる夢と時間について考察して、論文「唐代伝奇「南柯太守伝」に於ける夢と時間の一考察」にまとめた。この論文は従来ややもすると同一の主題と見なされてきた「枕中記」と「南柯太守伝」が、物語の時系列上で大きな隔たりをもち、主人公の人物像も微妙に異なった視点から作られていることを述べた。夢の時間構造が、「枕中記」は現実の続きとして、「南柯太守伝」はいったん時間を戻して夢が始まっていることを指摘し、具体的な物語内部の記述により論証した。また「南柯太守伝」の時間記述については、古くは魯迅「唐宋伝奇集」の校勘記が示唆したように、大きな矛盾があって話の辻褄が合わないまま、現在に至っている。従来多くの研究者が未解決のままにしてきたこの問題に対して、今回私の提示した仮説によって、長年の疑問はほぼ一掃されたと考えられる。この論文は、本研究の副産物的な側面があるが、得られた成果は非常に大きいと言えよう。来年度以降の研究に活かしていきたい。
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Research Products
(2 results)