2011 Fiscal Year Annual Research Report
漱石文学における老子の哲学と『文選』の神話についての研究
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22520369
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Research Institution | Seitoku University |
Principal Investigator |
李 哲権 聖徳大学, 人文学部, 准教授 (70306455)
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Keywords | 夏目漱石 / 老子哲学 / <水の女> / <画の女> / 文学的哲学 / 哲学的文学 / 「動の原理」 / 「静の原理」 |
Research Abstract |
平成23年度は、より総合的で体系的な研究を目指すことで、本研究で掲げた三つの研究課題、すなわち、漱石文学は如何なる性質のものであるのか、漱石文学に働く想像力は如何なる背景と如何なる性質を有するものであるのか、漱石文学を支え、可能にする文体的特長は何か、についての全容解明を図った。また、漱石文学を単なる文学ではなく、「哲学が生産する文学」として読む可能性、あるいは「文学が生産する哲学」として読む可能性について、既発表の拙論にさらなる哲学的な考察を加えることで、漱石的想像の世界において文学と哲学の境界が如何に曖昧模糊なものになっているかを主にエクリチュールの角度から言及した。そのほかに、今年度は「漱石文学と老子の水の哲学」の比較対照研究で明らかにした水の「動の原理」に対する「静の原理」として、漱石文学における絵画的言説の有するメター次元に研究の幅を広げていった。こうした研究によって、漱石の小説は単なる「絵画小説」(芳賀徹)ではなく、水の「動の原理」に対する画の「静の原理」を有した、極めて構造的なテクストであることが明らかになった。と同時に、漱石的な<水の女>が「動の原理」を生きる存在から「静の原理」を生きる存在に移行していく時、そこに漱石的テクストの有する一つの必然性として<画の女>がさりげなく挿入される、エクリチュールのメカニズムも明らかになった。 本研究者は、こうした研究の成果を雑誌に掲載するほかに、実際に中国や台湾の学会や教育現場に出向いていって口頭発表を行なった。そうすることで、多くの建設的で刺激的な視点や議論との出会いを果たし、本研究の範囲をもとの「漱石文学と老子の哲学」から、「太宰治文学と老子の哲学」という新しい分野へと広げていくこともできた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
漱石文学を「文学が生産する哲学」という視点での議論は、すでに拙論で取り上げており、それを土台に老子の哲学的言説が如何なるプロセスを踏んで、漱石の文学的エクリチュールへと置き換えられているのか、ということについての考察も既発表の拙論(「隠喩から流れ出るエクリチュール -老子の水の隠喩と漱石の書く行為」『日本研究』第41巻)である程度明らかになっているからである。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、当初の研究計画書に掲げた研究課題についてほぼクリアする形で研究を行ない、現在に至っている。ゆえに、最終年度にあたり、できれば三年間の研究成果を総括して単行本の形で世に送り出したい。
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Research Products
(4 results)