2010 Fiscal Year Annual Research Report
琉球方言の授受動詞・指示詞に関する体系的研究 ―古代語との類型的対照-
Project/Area Number |
22520416
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Research Institution | Oita University |
Principal Investigator |
荻野 千砂子 大分大学, 教育福祉科学部, 講師 (40331897)
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Keywords | 授受動詞 / 給はる / 琉球方言 / 八重山 / タボールン / 主格非明示 / 奪格主語 / 二方面敬語 |
Research Abstract |
今年度の研究は,まず1点目として,古代語の「給はる」の文献調査から始めた。八重山地方では,敬語の授受動詞タボールンに対するヴォイス形「タボーラリン」を授受動詞として使用している。古代語「給はる」は,「給ふ」のヴォイス形である。ヴォイス形が生じることが,古代語と八重山地方の授受動詞に特徴的に見られるため,中世の「給はる」にも理論的にはヴォイス形が新たに産出される可能性があるのではないかと考えた。結果,鎌倉後期書写の『源家長』日記に一時的に産出されたと見られる「給はらる」の例を発見した。 次に2点目として,タボールンの文法的特徴をみるために,新たに構文の面からの調査と考察を行った。その結果,「与え手Aが受け手BにCをタボールン」という主格を明示する構文だけでなく,奪格「Aから」を用いる「AからBへCをタボールン」という構文を持つことが明らかになった。そこで,急遽,年度当初の計画を変更し,古代語「給はる」も構文面からの考察を行うことにした。すると,古代語「給はる」にも「AよりBにCを給はる」と奪格「より」を使用する構文を持つことが明らかになった。奪格を用いることにより,主格を非明示となる仕組みが見えてきた。そのため,タボールンにも「給はる」にも,複数の意味「お与えになる,下さる,頂く」が併存可能となるのではないかと考えた。 3点目に,敬語の授受動詞の関係を調べるために,二方面敬語に関する調査を行った。「謙譲語+尊敬語」の組み合わせは,共通語では通常用いない。しかし,八重山地方では一般に用いる。「さしあげなさる」は共通語ではかろうじて「主語<補語」の人間関係の際にのみ用いられるが,八重山では「主語>補語」でも「知事が市長に花束をさしあげなさる」のように使用可能である。そこで,このような現象と古代語の二方面敬語「奉り給ふ」との比較を始めたところである。
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