2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22520430
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
東郷 雄二 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (10135486)
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Keywords | フランス語 / 時制 / 半過去 / 談話 |
Research Abstract |
フランス語の過去時制を、談話的における情報の保持と管理という観点から分析し、次の点を明らかにした。金水(大阪大学)は日本語について、「出来事的テンス」と「情報的テンス」を区別することを提唱した。前者は「私は昨日東京へ行った」の過去形のタのように、時間軸の上での出来事の分布を表す。これにたいして後者は「君は確か鳥取の生まれだったね」のタのように、時間軸上での過去ではなく、話し手が情報を取得した時点に関係する。このように過去時制は常に過去を表すわけではなく、話し手の談話情報の取得と保持に関わっている。フランス語でも事情は同じであり、今年度の研究では特に時制の持つ情報管理的側面に着目して分析を進めた。単純過去は談話外の語り手による情報の全体的保持を前提とし、また視点を担うことがない。また単純過去の表す談話情報は、語り手の知識ベースに帰属する。言い換えれば単純過去は、話を最初から最後まで知っている語り手を前提とする時制である。一方、半過去は、知覚的半過去、単純型の認識的半過去、包括型の認識的半過去の3つの用法に区別できる。知覚型の半過去は最もよく知られている半過去の用法で、談話内人物の視点を表す。いわゆる内的視点を感じさせる半過去である。ところがIl etait une fois un prince malheureux.「昔々あるところに不幸せな王子様がおりました」のような物語の冒頭の半過去には視点が感じられない。これは認識的半過去と見なすべきで、認識的半過去では視点ではなく、情報の帰属主体が問題となる。このような包括型の認識的半過去では談話外の語り手に談話情報が帰属すると考えるべきである。また認識的半過去の単純型とは、Paul travaillait chez IBM.「ポールはそのIBMで働いていた」のような文が、談話の登場人物の知識として述べられるケースで、この場合、談話情報は一次的には談話内人物に帰属する。
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