2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22520430
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
東郷 雄二 京都大学, 大学院・人間・環境学研究科, 教授 (10135486)
|
Keywords | フランス語 / 時制 / 半過去 / 談話 |
Research Abstract |
本研究の目的は、時制の豊富な言語であるフランス語を対象として、ややもすれば単文の考察に終始しがちな時制の研究を談話レベルで行うことである。時制を時間軸上での出来事の分布を示すものと考える伝統的な立場では、ライヘンバッハのS=発話時点、E=出来事時点、R=基準点の3つのパラメータで記述することが広く行われてきた。しかしこの考え方では、例えばフランス語のPierre pensait que son pera revenu avant midi.「ピエールは父親が正午までに戻って来ているだろうと考えた」において、pensaitに割り当てるパラメータがなくなってしまうことが知られていた。時制の正しい記述のためにはS,E,Rの他に、談話内人物(この例ではPierre)に視点を設定しなくてはならない。本研究ではフランス語時制を発話時点を中心とするゾーンと過去の時点t1を中心とするゾーンに二分する分析に基づいて、過去の研究で論議の的となってきたJean semiten mit en route dans sa nouvelle Mercedes. Il attrapa une contravention. Il roulait trop vite「ジャンはベンツの新車ででかけた。彼は違反切符を切られてしまった。スピードを出しすぎていたのだ」の半過去もまた、過去時点t1(=attrapa)に視点をおいてそれより過去のゾーンを振り返った用法であることを明らかにし、さらにこの現象の理解を深めるためには時制の一致の考察が不可欠であることを示した。また半過去の用法を正しく記述するためには、視点移動をともなうrecitの半過去とdiscoursの半過去を別せねばならず、その区別に深く関係するのが話し手の談話構築という観点に立つことが必要不可欠であることを示した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
談話的観点からフランス語の時制の構造と機能を明らかにするという本研究の目的に沿って、伝統的なライヘンバッハのS=発話時点、E=出来事時点、R=基準点という分析装置に談話内人物の視点という4つめのパラメータを組み込む為の理論構築と、それに基づき従属節における時制の一致のメカニズムの明示化を行い、それによって一見すると複雑で多岐にわたるかに見えるフランス語の半過去の振る舞いを正確に記述できることを示した。これによりおおむね順調に進展していると判定できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
現在まで主にフランス語の過去時制について分析を進めてきたが、今までに整備した概念装置を用いて未来時制についての考察を進める予定である。また研究成果を発表した際に、寺村秀夫の「叙想的テンス」あるいは国語学で言う「ムードのタ」も視野に入れて考察すべきであるとの示唆を受けた。本研究は半過去は基本的に「過去時制、未完了」を表すとの前提に立っているが、確かにUn philosophe qui murait recemment a laisse beaucoup d'ecrits「最近亡くなった哲学者は多くの著述を残した」のような例では、半過去を未完了と取ることはできず、叙想性が関与していると考えられる。今後はこの叙想性をどのようにして今までの理論構築に組み込むかを考察する予定である。
|