2012 Fiscal Year Annual Research Report
生成文法における長距離依存の局所性に関する理論的及び実証的研究
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22520511
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
石井 透 明治大学, 文学部, 教授 (30193254)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 理論言語学 / 生成文法 / 統語論 / 比較統語論 / 局所性 / 言語間差異 |
Research Abstract |
本年度は、以下の二点についての研究を行った。第一に、「下接条件効果」及び「取り出し領域効果」が、音韻 部門内での外在化過程で、韻律構造に適用される制約によるものであるという方向を推し進め、「下接条件効果 」及び「取り出し領域効果」に関する言語間差異は、各々の言語の韻律構造の違いに起因していることを示した。 特に、Wh島の条件については英語とスペイン語を比較対象とし、主語条件に関しては英語と日本語・スペイン語を比較対象とし検討し、韻律構造の違いが局所性条件効果に影響を与えることを明らかにした。 第二に、極小モデルにおけるパラメータ理論の構築についても検討を行なった。特に、Berwick and Ch omsky (2008)は、「進化的妥当性」を満たすパラメータ理論構築を目指し、パラメータは外在化過程に限定され るべきではないかと示唆している。そこで、下接条件及び取り出し領域条件に関する言語間差異を含めて、これ まで提案されたパラメータ(例えば、whパラメータ、語順パラメータ、代名詞主語省略パラメータ(pro-drop pa rameter)など)について、それらの設定に至る過程の議論を、それを支えた具体的な言語現象と共にもう一度検 討し、これまで提案されたパラメータを、どのように外在化過程でのパラメータとして再定式化できるのかを検 討した。特に、Chierchia (1988)の「名詞写像パラメータ」(nominal mapping parameter)やSvenonius and Ramchand (2008)の統語パラメータと意味パラメータの統合などは、Berwick and Chomskyのパラメータ理論とは相 容れないことになり、再検討を行った。そして、国際学会での発表および国際雑誌への論文掲載などを通じて、研究成果の発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究はおおむね順調に進展している。まず第一課題である、「下接条件効果」及び「取り出し領域効果」が音韻 部門内での外在化過程で韻律構造に適用される制約によるものであるという方向を推し進めることに関しての達成度について述べる。この課題については、Wh島の条件については英語とスペイン語を比較対象とし、主語条件に関しては英語と日本語・スペイン語を比較対象とし検討し、それぞれの言語での韻律構造をまず調べ、その違いが局所性条件効果に影響を与えるかどうかを検討した。その結果、Wh島の条件については、英語とスペイン語との補文標識の韻律構造上での違いが局所性の有無に影響を及ぼしているのではないかという方向を見いだすことが出来た。ただし、主語条件については、さらに検討が必要である。 次に、第二の課題である極小モデルにおけるパラメータ理論の構築に関して述べることにする。「進化的妥当性」を満たすパラメータ理論構築を目指し、パラメータは外在化過程に限定されるべきではないかと示唆している。そこで、下接条件及び取り出し領域条件に関する言語間差異を含めて、これ まで提案されたパラメータ(例えば、whパラメータ、語順パラメータ、代名詞主語省略パラメータ(pro-drop pa rameter)など)について、それらの設定に至る過程の議論を、それを支えた具体的な言語現象と共に検討した。この研究過程で以下の課題が浮き上がった。すなわち、パラメータが外在化過程に限定されるという考え方では、パラメータにはミクロパラメータのみが存在し、マクロパラメータは存在しないということになる。しかし、言語間差異の中には(特に、語順パラメータ)、マクロパラメータを用いた方が説明しやすい現象も見られる。この課題、すなわちマクロパラメータとミクロパラメータとの関わりについては、今後さらに検討が必要であることがわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も上記で述べた二つの課題を中心に研究を推進していく予定である。まず、「下接条件効果」及び「取り出し領域効果」が音韻 部門内での外在化過程で韻律構造に適用される制約によることを明らかにする課題に関してである。この課題については、Wh島の条件については英語とスペイン語を比較対象とし、韻律構造が影響を及ぼしているのではないかという方向性を見いだすことが出来た。今後はこの成果をさらに確固たるものにするために、英語とスペイン語の韻律構造(特に、補文標識の韻律構造上での扱い)についてさらに詳細に検討して、結論まで導き出す予定である。そして、主語条件に関しては英語と日本語・スペイン語の主語句に関する韻律構造を詳細に検討し、まずは方向性を見いだし、さらに結論を導き出せるよう研究を推進する予定である。 次に、極小モデルにおけるパラメータ理論の構築に関してであるが、昨年度の研究過程で浮き上がった課題、すなわちマクロパラメータとミクロパラメータとの関わりについての検討から始める予定である。この課題については、以下の二つの方向性を並行して検討する。一つは、マクロパラメータによる説明の方が妥当であると指摘されている言語間差異(特に、語順パラメータ)について、ミクロパラメータではどのような説明が可能かどうかを、これまでの研究成果を再検討することを通じ研究を推進する予定である。もう一つは、マクロパラメータは、パラメータが外在化過程に限定されるという考え方と相容れないと指摘されているが、相容れるようにマクロパラメータを定式化する方法がないかどうかを、最近盛んに行われているマクロパラメータとミクロパラメータとの関わりについての研究成果を詳細に検討しながら、研究を推進する予定である。これら一見相反するように見える二つの方向性を同時に検討することにより、この課題への解決策を提示することを目標とする。
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Research Products
(6 results)