2011 Fiscal Year Annual Research Report
19世紀末から20世紀初頭の日本の唱歌と太平洋地域近代歌謡文化の宣教化と脱宣教化
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22520645
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Research Institution | Nara University of Education |
Principal Investigator |
安田 寛 奈良教育大学, 教育学部, 教授 (10182338)
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Keywords | 唱歌 / 賛美歌 / 太平洋 / 近代歌謡 / 宣教化 |
Research Abstract |
今年度の最大の成果は、それぞれが太平洋の中で得意とする地域と時期について、宣教化と脱宣教化の視点から意見を交換でき、太平洋の脱宣教化のアウトラインが明らかになったことである。 クキからはサモアのカレッジで伝統音楽の復権が盛んで、それがカリキュラムに組み込まれてゆく過程についで情報を得た。ブライアン・ディットリッヒからはミクロネシアのトラックにおけるカトリック教会の最新の音楽動向についての情報を得た。チャドヴィック・パンからは、ハワイのネイティヴの学校での賛美歌と伝統音楽との融合の視点からの脱宣教化について情報を得た。ジェーン・ムーランからは、タヒチにおける宣教化と脱宣教化の歴史的経緯によって、伝統舞踊の伝承が近代学校システムによって現在大きく様変わりしたことについての情報を得た。 閏庚燦からは、韓国における宣教化と脱宣教化についての歴史と、韓国が今日世界で最も多くの宣教師を海外派遣していることなどの情報を得た。 さらに、ニュージーランドにおける捕鯨と宣教との密接な関係を具体的に跡づけることが出来た。また宣教に協力する現地人の視点から日本との平行現象を確認することができた。 トンガでは教会での賛美歌歌唱の調査をし、宣教化がしっかり根付いている様子を観察できた。 海外研究協力者との討議の中から、太平洋の歌謡文化の脱宣教化はpost-missionizationであってもanti-missionizationではないことが確認できた。つまり、太平洋の新しい歌謡のアイデンティティ確立の問題は、キリスト教の歌謡からの脱却からではなく、それを土台とした、あるいはそれと融合した新しい伝統の創造という方向に向かっていると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画に記した(1)資料(録音資料を含む)・文献の調査と収集(2)フィールド・ワーク:トンガ又はクサイ(3)国際学会での研究発表(4)学会でシンポジウム開催(海外研究協力者を数名招聘)(5)収集した資料を地域間、地域内の比較を中心に分析の内、(2)~(5)までは達成できたこと。(1)については特に録音資料の収集がやや不十分であったことが理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
19世紀太平洋の広大な地域の宣教化と脱宣教化を描くには、捕鯨船によって開拓された港ごとに記述するのが有効であることが分かったので、マルケサスのヌクヒヴァ(Nuku Hiva)、タヒチのパペーテ(Papeete)、ニュージーランドのベイ・オヴ・アイランズ(the Bay of Islands)、サモアのアピア(Apia)、フィジーのカダヴ(Kadavu)に焦点を絞って、開港時期、入植した宣教団と持ち込まれた賛美歌集、その編纂と歌唱の歴史、そこから発展した新しい歌について明らかにし、それらを相互に比較しながら、全体像を描き出す。 海外の研究協力者とは引き続き意見を交換して、19世紀太平洋歌謡文化の変遷を宣教化と脱宣教化の視点から全体像を明らかにすることに努める。
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