2011 Fiscal Year Annual Research Report
木簡・正倉院文書・編纂史料の相互比較による日本古代文書論の再構築
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22520667
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
市 大樹 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (00343004)
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Keywords | 古代文書論 / 文書の機能 / 紙と木の使い分け / 文書伝達と口頭伝達 / 木簡の多機能性 / 志摩国荷札 / 飛鳥木簡 |
Research Abstract |
本研究は、「日本古代文書論の再構築」を目的として、主として奈良時代の行政文書に焦点を定めて、木簡、正倉院文書、編纂史料の相互比較をおこなうものである。すなわち、<文書の機能><紙と木の使い分け><文書伝達と口頭伝達との関係>の3点に注意しながら、日本古代の行政システムを具体的に再現し、従来の文書様式論に変わる新たな枠組みをつくることを目指す。 これらを目的として、本年度は、昨年度に引き続き、平城宮・京跡出土の木簡を対象として網羅的に史料収集をおこなった。さらに飛鳥時代からの連続性を検証するために、飛鳥・藤原京跡から出土した木簡についても、史料収集をおこなった。とくに注意を払ったのは、「木簡の多機能性」についてである。木簡は一度の使用で役目を終えるとは限らず、二次利用、三次利用される場合が少なくない。いかなる原理のもと、木簡は多機能性を果たしていたのかについて、紙の文書との比較という視点から検討を試みた。その検討結果の一部については、「日本古代木簡の多機能性」というタイトルで、国際学会の場で発表をおこなった。また、昨年度から引き続き、志摩国を中心とする奈良時代の贄荷札の検討をおこなっており、その成果の一部については、市民講座の場においてではあるが、「志摩国の荷札木簡を読む-贄を中心に-」(2012年2月5日)というタイトルで口頭報告をおこなっている。 また、本年度は、<紙と木の使い分け><文書伝達と口頭伝達との関係>に関する研究成果を盛り込んだ、単著『すべての道は平城京へ-古代国家の<支配の道>-』(吉川弘文館)を刊行し、どのようにして情報伝達がなされ、使者が移動をおこない、物資が動いていたのかを多角的に論じた。さらに、飛鳥時代における木簡使用のあり方を考察し、飛鳥時代像の再検討をおこなった『飛鳥の木簡』(中公新書、2012年刊行予定)を執筆した。これは奈良時代を直接扱った研究ではないが、その源流を考える上での重要な見通しを得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の重要なポイントなる<文書の機能><紙と木の使い分け><文書伝達と口頭伝達との関係>について、一定の成果をあげることができたことによる。研究成果については、学会などの場で速やかな報告をおこなうとともに、論文や図書などの形で公にしたことによる。
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Strategy for Future Research Activity |
前述のとおり、<文書の機能><紙と木の使い分け><文書伝達と口頭伝達との関係>については、一定の研究成果をあげることができたが、考察の範囲がまだ限られていることも事実である。研究対象をさらに広げ、着実な実物調査にもとづいて、「日本古代文書論の再構築」をめざしたい。また、本研究は「古代東アジア文書論」の構築を視野に入れており、そのための助走として、中国・韓国などの事例についても検討していきたいと考えている。
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