2011 Fiscal Year Annual Research Report
戦後保守思想の形成に関する史的研究-国家主義・皇国主義との関係を中心に-
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22520670
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
河島 真 神戸大学, 人文学研究科, 准教授 (00314451)
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Keywords | 日本近現代史 / 思想史 / 国家主義 / 皇国主義 / 国家主義 / 保守思想 |
Research Abstract |
研究素材としている苦瓜恵三郎が書き残した自筆資料のうち、戦前(1932~1940年)、戦後(1956~1958、1967~1970年)の日記の解読・分析、戦後書き残した『回顧七十年』全10編の翻刻、研究開始当時は予定していなかった自筆原稿「金澤生活の反響」の複写・翻刻を進めてきた。また、苦瓜が戦後の教職適格審査で失格となるきっかけとなった著書『戦時婦女訓』(1943年、健文社、文部省推薦図書)ほか、活字化された史料13点(そのうち大半は私家版)の解読・分析も進めた。さらに、1927~1932年教頭として、1941~1947年校長として在職した兵庫県立第一神戸高等女学校の史料を所蔵する兵庫県立神戸高校、1938~1941年校長として在職した山口県師範学校の資料を所蔵する山口大学・山口大学教育学部同窓会、そして1951~1958年まで校長として在職した三田学園中学校・高等学校において史料調査を行い、在職当時に書いた文章や教員・生徒の回想などを収集した。 これらの成果を踏まえ、「戦後史を考える研究会」(当初は「戦後思想史」の研究会にする予定であったが思想史に限られない幅広い知見が必要と考え名称を改めた)を立ち上げて研究会を開催した。特に3月2日に開催した研究会には、私自身が戦後の「文化国家」言説をめぐる思想史的研究の研究報告を行うと共に、東京経済大学専任講師戸邉秀明氏を招いて研究報告をお願いして、大いに知見を広げることができた。 苦瓜恵三郎史料の分析からは、国家主義・皇国主義の系譜を引く言説をとりわけ公の場では広く展開しながらも、教育についてはきわめて個人主義的な思想の片鱗を見せるなど、公の価値観の変遷の枠内で思想傾向の位置を変化させていることが見いだせた。 なお、当初予定していた苦瓜恵三郎氏のご遺族(長女の苦瓜恒子氏)の聞き取りは、たいへん残念ながらご本人の急逝にともない実現しなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「回顧七十年」全10編の翻刻にやや時間がかかっているものの、対象史料の複写・翻刻は予定通り進行している。国家主義・皇国主義的な言説に埋没していく一方で、1930年代に国家主義的傾向が強まっていく世情の中で政治権力と対立する姿勢を示していたことを見いだせたこと、戦後の追放を経て教育現場へと戻った段階では、戦前の教育を賛美する言説を公の場で残しながらも、私的には個人主義的教育観を語るなどの揺らぎが見いだせたことなどから、戦後保守思想の性格を問い直す最終的な研究成果への展望が開けてきている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究開始当時から、研究成果は最終年度に集約的に発表する予定であったので、今後は研究成果のとりまとめに進む。 まず、翻刻が未了の史料(『回顧七十年』)の翻刻完了、追加的に史料調査が必要と思われる姫路師範学校同窓会白鷺会への調査を行った上で、研究報告・論文執筆を行い、また個人情報に留意した上で、Web上での史料の一部公開に向けて準備を進めていきたい。
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