2010 Fiscal Year Annual Research Report
近世日本における政治意識と福祉観念の相関性に関する基礎的研究
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22520679
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
高野 信治 九州大学, 比較社会文化研究院, 教授 (90179466)
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Keywords | 福祉 / 行政 / 思想 / 儒学 / 教育 / 宗教 |
Research Abstract |
本年度は近世における福祉に関する思想・行政をめぐり大きな見通しを得ることが目的であった。その主な成果は以下の通りである。 (1)著名な知識人の役割と併行して、危機的な状況で改革政策(藩政改革)が推進されるなかで登用される知識人(いわゆる藩儒)が重要な役割を果たす状況が各地域にある。乳井貢(津軽藩)、秋山景山(長岡藩)、平井元珍(尾張藩)、村田清風(長州藩)、古賀精里(佐賀藩)など、いずれも儒学を学び、治世に家臣として関わる。実際の政治(藩政)の動きの中で、政策の提言やその実行のあり方を通じて思想が形成される。 (2)政策提言の主要な柱は教化・教諭であった。儒学は礼(身分)の秩序を重視し、その援用として諸社会身分としての自覚と道徳性を教化する。しかし、教化に注目した場合、儒学を基本としながらも、仏教、神道、さらには文学(俗文学)がその役割を果たす場合もあり、そこには、教化される側の知的水準の向上が考慮されねばならない。 (3)教育・学問は知的水準向上に果たす役割が大きいが、それは、為政者としての武士や被治者の民衆(領民)など諸階層にいえる。政策提言をしえる知的水準を武士がいかにみにつけるかは、学問受容・藩校教育の問題である。そこでは支配の対象としてではなく、同じ人間として民をみる意識が徐々に醸成された。一方、識字から多様な知識・情報を得る民衆(領民)は、社会的立場の自覚とよりよい生活環境・福祉を求め、武家領主に訴願する。そのようななか、例えば心学の歴史的役割は改めて検証しなければならない。 (4)宗教についても、民衆の主体性と教化的側面の二面性に留意する必要がある。近世でも宗教は一定の機能を有した。儒学や心学などが宗教性を有しており、かかる観点から、政治意識と福祉のあり方が宗教性と結びついていた可能性が理解される。
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Research Products
(6 results)