2012 Fiscal Year Annual Research Report
近世日本における政治意識と福祉観念の相関性に関する基礎的研究
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22520679
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
高野 信治 九州大学, 比較社会文化研究科(研究院), 教授 (90179466)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 社会的弱者 / 御救意識 / 勤労意識 / 倫理性 |
Research Abstract |
本年度は、地域社会における貧困層、病者・障害者などの社会的弱者に対する善政・仁政や御救(救済)の実態の解析を試みた。その結果、以下の見通しを得た。 (1)おおよその傾向としては、一七世紀の後半、幕藩領主が自らの権力基盤に役屋百姓などの有力農民ではなく、小農民(小経営)を据える政策を展開する中で、御救意識が領主層にも形成され、領民保護政策が本格化する。しかし、それは勤労意識を持ち、その実績(年貢皆済、諸役勤め)が条件にされており、また日常的には、共同体(地縁としての村・町、血縁としての縁者など)にその機能は委ねられていた。領主側が能動的に福祉政策を発動するのは、非日常的な環境(深刻な飢饉、地震や火災などの災害)にほぼ限られていたといえ、日常的には共同体がその役を担った。 (2)したがって、庄屋・惣庄屋など地域有力者かつ村役の立場にあるものが、地域社会の実態を如何に受け止めているのかという問題が一つのポイントになる。いわゆる飢人改などは、このような階層の発案・認識で領主側に上申され、それをうけ具体的な政策が動く、というパターンが一般的なようである。 (3)したがって、近世の福祉観念を考える上で重要なのは共同体、地域社会における弱者・病者に対する認識であり、それがいかに領主の政治に結びつき活かされるのかである。その際、例えば貧困・病気が神仏の加護から見放された者、という差別観の存在である。それは弱者としての存在が、神仏に見放されるような倫理性の問題と考えられ、福祉の対象と認識されるよりも、むしろ社会的に阻害される恐れも孕んでいたことは留意しなければならない。領主政治における福祉観念は地域社会における差別意識と相関していよると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
領主側の政治意識と福祉観念を具体的な政策過程で抽出する作業は、知識人などの著作から解析する手法に比較すれば、かなりの労力と手間を要するが、西日本の諸藩領を中心に次第にデータが収集されている。なお、このような領主政策に関わる問題と地域社会における弱者認識・福祉観念の相関性の問題が浮上してきたのは収穫である。
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Strategy for Future Research Activity |
前近代において福祉の問題を捉えることは、差別観さらに人間観を考察する必要性が改めて理解された。したがって、最終年度は本来は戦闘者でありながら治者という立場も強めた武士の人間観を政治に関わる知識人の影響なども考慮して検討すると同時に、地域社会におけるいわば自生的な差別観も真摯に見極める必要がある。貧困者や病者は共同体のなかからドロップアウトして、非人集団のなかに流入する経路も想定される。このような人間観、差別観について、武家領主と地域社会の双方の関係性に留意しながら、近世日本における政治と福祉の問題とリンクさせ捉える方向で、さらに研究を推進する。
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Research Products
(1 results)