2012 Fiscal Year Annual Research Report
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22520682
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Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
上川 通夫 愛知県立大学, 日本文化学部, 教授 (80264703)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 大蔵経 / 一切経 / 東アジア / 仏教史 / 経塚 / 山林寺院 |
Research Abstract |
年度計画として掲げたのは、①中国・朝鮮等の大蔵経史料の調査・収集、②日本写経における中国・朝鮮刊本大蔵経の痕跡探査、③「一切経年表」の充実、④日本列島内の地域史研究との接合である。いずれも継続的に進めた。 ①②④について、成果の一部を用いた研究報告を行い、参考意見を得る機会とした。その一つとして、愛知県の普門寺での文献調査を紹介し、特に12世紀の新出資料に事例を絞って、史料学の観点で成果と課題をまとめた。また別に、本研究課題を推進する上で、美術史学とくに仏教美術研究との接点が大きいことに鑑みて、美術史研究者とのシンポジウムで報告した。主に12世紀の真言密教について、東アジア史と日本列島史を踏まえた議論を構築する試みとした。その過程で、建築史学との接点を深めることができた。さらに、文学研究者を中心とする寺院史料論のシンポジウムで報告した。愛知県の真福寺の文献をテーマとするもので、博物館展示と図録作成に連動する企画であった。そこでは、仏教学との接点を深めることができた。 以上の報告のうち、美術史研究者との交流については原稿化した。 ほかに、④日本列島内の地域史研究との接合に関して、古代・中世の山林寺院と地域社会の関係を動態的に捉える方法を探り、その一つとして経塚についての研究をすすめた。「摂関期の如法経と経塚」として論文を執筆したほか、愛知県域と三重県域について、史料収集等を進めた。 このほか、前年度の研究についての論文として2篇を刊行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年度計画として4分野を掲げていたが、その内の一つについては充分な進展が得られなかった。すなわち、①中国・朝鮮等の大蔵経史料の調査・収集について、中国への出張を予定して航空券を購入していたが、政情不安によって渡航を断念した。この点で充分な研究達成と評価しにくい理由である。その分については、国内での書籍購入等によって史料収集を試みた。 計画していた②日本写経における中国・朝鮮刊本大蔵経の痕跡探査、③「一切経年表」の充実については、基礎作業を積み上げた。継続中である。 ④日本列島内の地域史研究との接合については、当初の計画以上に進展した。継続していた普門寺(愛知県豊橋市)の文献調査が進展した上に、関連史料として新たに石巻神社(愛知県豊橋市)の大般若経(豊橋市美術博物館寄託)の調査が実現し、その約半分を精査した。このほか、愛知県域と三重県域について、本研究課題に即した調査と考察がすすんだ。関係して、山林寺院や経塚をテーマとする研究方法の開拓に挑むこととし、収集史料の幅と考察課題の拡がりを設定することができた。 研究成果の中間報告を兼ねて、学会等で口頭報告・論文執筆を行い、意見を聞くことができた。美術史研究者を主とする研究会では、本研究と異なる視角からの知見を得ることができ、特に有効であった。 以上、①は不充分、②③は順調、④は当初の計画以上であり、総合しておおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
継続している史料収集については、データの整理を行う。重点を置いた継続的調査の対象として、愛知県豊橋市の普門寺所蔵文献があり、なお全体の半分ほどを調査し得た段階である。所蔵者からは、およそ3年間をめどに継続調査することの了承を得ているので、豊橋市教育委員会との連携をえつつ完遂する予定である。石巻神社大般若経については、寄託先である豊橋市美術博物館の協力を得つつ2013年度中に調書を取り終える計画である。中国・朝鮮等の関係史料については、2013年度も現地での実見機会を探り、研究者間の情報交換によって今後の継続的な調査機会を確保する。 今年度で本研究課題について暫定的な一区切りをつける。個別論文を執筆して論文集の編集に備える。同時に、本研究を踏まえた個別テーマとして、「平安京と中世仏教」と題した新稿単著を年度内脱稿を目指して執筆する。 東アジア世界論を射程に入れた本研究では、日本史を取り巻く実態としての広域世界を考察対象にした。その過程で、日本列島内の地域社会に内在する世界史的動向をつかむという課題を自覚した。中長期的には、そのような新研究へと接合する予定である。10世紀~12世紀の仏教史を軸とする文献史学という方法については変わりないが、美術史研究・建築史研究・考古学研究の方法と成果を吸収し、村落や里山と密着した寺院と地域社会とが関連し合う史的動向を探ることで、東アジア世界論を捉え返す試みとしたい。
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