2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22520728
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
兎内 勇津流 北海道大学, スラブ研究センター, 准教授 (50271672)
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Keywords | 西洋史 / ロシア正教会 / キリスト教史 / フィラレート(ドロズドフ) / 宗教と国家 |
Research Abstract |
平成23年度においては、19世紀のロシア正教会史に関する史資料の収集を継続する一方、当時の正教会で最も権威がある聖職者だったフィラレート(ドロズドフ,1782-1867)について、アレクサンドル一世期(1801-1825年)およびニコライ一世期(1825-1855年)にまたがって、その著作内容と活動に関する研究を深めることができた。フィラレートについては、キリスト教他宗派への理解を示す柔軟性、正教会の教育改革に取り組み、ロシア語への聖書翻訳を推進した「進歩性」と同時に、正教会の非常に保守的な面を代表するとも言われており、その関連性を統一的に理解することが重要と考える。昨年中に、ロシアのシリーズ「偉人伝叢書」において、評伝「モスクワのフィラレート」が刊行され、現代ロシアの目から見たフィラレート像を確認することができた。それは簡単に言えば、19世期帝政ロシアの政治や文化の潮流の中で、責任を果たし生を全うした聖人とされるにふさわしい聖職者である。一方、20世期初めにA.コトヴィッチが著した『ロシアにおける宗教検閲史l799-1855年』では、そこには全く触れられていない別のフィラレート像が描かれている。すなわち、教会内で絶大な権威を持ち、あらゆる新しいものに疑念を持ち、それを抑圧したということである。また、19世期ロシアにおいて正教会の教義を体系化した最重要の仕事として、マカーリー(ブルガーコフ、1816-1882)の『正教教義神学』(1847-1853年》が挙げられるが、フィラレートはこれに対して、冷淡だったと指摘されている。当該年度では、そうした経緯の詳細を明らかにするには至らなかったが、初期のフィラレートが相当プロテスタントに近い立場を取ったことを示す史料を確認することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
フィラレートの著作は、相当の量があり、また関連テキストで入手が意外に困難なものがあることから、分析の進行にやや遅れがある。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究において、教義の理解は、その歴史的・社会的文脈の中で進められる必要があると考える。その観点からすると、(1)フィラレートの残した書簡や同時代人の回想等を利用した、人間関係の分析、および(2)西欧における神学の動向との関連分析の両方が、方向として考えられる。しかし、同時に両方を推進するのは困難であるので、当面(1)に重点をおきつつ、可能な範囲で(2)を行うこととしたい。
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Research Products
(3 results)