2012 Fiscal Year Annual Research Report
解体期ローマ帝国の政治動向と社会の様態に関する研究
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22520744
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
南川 高志 京都大学, 文学研究科, 教授 (40174099)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | ローマ帝国 / ゲルマン人 / 属州 / ゴート族 / テオドシウス1世 / ユリアヌス帝 / フランク族 / アラマンニ族 |
Research Abstract |
本研究の第3年目にあたる平成24年度は、4世紀から5世紀の後半までのライン川以西、ドナウ川以南のローマ帝国領について、その社会の様態を本格的に分析することがまず第1の目的であった。研究のための文献資料はすでに収集済みであったので、力点は考古学的資料・遺跡の調査と発掘調査記録等を閲覧することに置かれた。そのため、予定通り夏季に調査旅行を実施し、ドイツ、ハイデルベルク大学を訪ねて所蔵資料を調査・利用するとともに、4世紀から5世紀にかけて歴史の重要な舞台となった現フランス東部地方の博物館の所蔵資料を調査した。とくにメッス市、ランス市の博物館の所蔵考古資料は、時代理解のために貴重な示唆を与えてくれた。 また、さらなる史料収集と研究意見交換のために連合王国、ケンブリッジ大学とオクスフォード大学を訪ね、とくにオクスフォード大学名誉教授ファーガス・ミラー卿に会い、意見交換と法史料の扱いに関する指導を受けた。平成23年度に面会の予定であったが、ミラー卿の入院により延期されていた。これによって、今後の研究、とくにローマ法史料の利用について、多くの知見を得ることが出来た。 平成24年度の活動の大きな進展は、研究が進んだ時期である5世紀の前半部分までを直接の視野に入れて、研究成果の一般社会への提示作業たる新書(岩波新書)の執筆をおこなったことである。これは、計画調書に明記していた事業であり、本研究の成果を全面的に取り入れて、4世紀以降のローマ帝国の衰亡について、私なりの歴史叙述をした。執筆は平成24年度末までに終了し、校正作業を経て、平成25年5月21日に出版の予定となっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、地中海帝国として語られがちなローマ帝国について、アルプス以北の帝国領に視点を置いて分析するという独自の観点で帝国の本質を再考してきた私の研究を基盤として、帝国の解体過程を見直そうとするものである。本研究では、その目標を、4世紀から5世紀にかけての政治動向を精査することと、当該時代の社会の実態を解明することに置かれたが、これらについては、従来の古代終焉期政治史研究と「古代末期」学派の社会史研究の蓄積がある。本研究の3年間で、これらの研究史、学説史については、おおむね要点・問題点を把握している。ただ、そこから独自の視角で分析する作業については、特にいわゆる「ゲルマン人」の問題に関して、6世紀以降のヨーロッパ世界の展開を見通した上での史料検討までは研究が至っていない。そのため、この分野の研究者、とりわけウィーン学派の学者たちの業績を参看し、意見交換することを改めて必要と考えている。 政治史については、5世紀前半までの動向は史料を踏まえて把握できた。しかし、5世紀の半ばから後半については、フン人の西進の問題が横たわり、研究の深化が必要である。フン人は、今日でもその起源や民族系統などが不明で、謎の集団であるが、しかしその行動、とくにアッティラの大帝国形成の解明は、古代終焉期の理解にとって極めて重要である。これについては、友人で研究支援者であるケンブリッジ大学クリストファー・ケリー博士の近著のテーマであるため、博士からさらに助言を得て、従来の研究とは異なる視座からの分析を急がねばならないと思っている。 昨年度具体的に達成できた課題は、研究成果の一般への提示作業たる新書の執筆である。4世紀以降のローマ帝国の解体について、本研究で得られた知見を盛り込み、私なりの歴史叙述をした。執筆は平成24年度末までに終了して、平成25年5月に出版の予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで3年間の研究を回顧し、最終年度、平成25年度になすべき作業についてあげるならば、以下の3点が主要な課題となる。 まず、3年間にわたる研究史、学説史の再検討から得られた知識に照らして、いわゆる「古代末期」派の歴史研究を改めて吟味することが課題となろう。基本的に政治史研究の立場に立つ私から「古代末期」学派の社会史研究を批判するというのではなく、彼らの研究成果との整合性を考え、同派の社会史研究を政治史に取り込めるように試みることが大切と考えており、最終年度の具体的な課題としたいと思っている。 同時に、ローマ帝国、ローマ人から「他者」として位置づけられた「ゲルマン人」の問題についても、再度検討する必要を感じている。本研究計画当初には、ゲルマン人問題はローマ以前の時代に遡って部族集団の歩みを解明することで大方達成できると考えていたが、研究が深化するにつれ、ローマ帝国終焉期よりもさらに後の6世紀以降のヨーロッパ世界の展開まで見据えないと、正確な理解、集団の適切な歴史的位置づけが困難であることに気がついた。このため、ウィーン学派の研究を改めて検討することにしたい。 さらに、「ヨーロッパ古代」最大の他者たる「フン人」、なかんずくフン人の王アッティラについて、従来の研究とは異なる新たな道筋をつけておくことが、重要な課題である。本研究ではそもそも、従来中世史研究者が従事してきた古代から中世への移行の問題に古代史研究者の立場から貢献することが課題であり長所ともなっている。フン人、アッティラの研究はそれに密に関係しており、今後の自身の研究だけでなく、歴史学界に対する貢献としても重要と考えている。
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Research Products
(1 results)