2013 Fiscal Year Annual Research Report
カロリング期社会変革の基礎的研究。教会エリート、大所領
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22520747
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
丹下 栄 熊本大学, 文学部, 教授 (10179921)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | カロリング期 / 修道院経済 / コルビー修道院 |
Research Abstract |
2013年度は、コルビー修道院長アダラールが作成した指令書の内容分析を進めるとともに、フランス国立図書館に出張して同史料の写本を実見した。またカロリング期エリートと社会変革をめぐる研究動向調査の一環として、Valentina Toneatto, Les Banquiers du Seigneur. Eveques et moines face a la richesse (IVe-debut IXe siecle), Rennes, 2012の検討を行い、アダラール指令書の文言分析にあたっては宗教的コンテクストへの目配りが重要であることをあらためて確認した。 これらの成果をもとに、Relire un document monastique dans les contextes sociaux. Les statuts d'Adalhard de Corbie de l'an 822(社会的コンテクストから修道院ドキュメントを読みなおす。コルビー修道院・アダラール指令書)と題するフランス語論文を作成し、現在フランス語を母語とする専門家に校閲を依頼しているところである。その論文においては、アダラール指令書のテクストが聖書の言説(最後の審判、神による適切な財の配分、など)が修道院において具体化されることをめざして布置されていたこと、しかし同時にそれは所領経営の「合理性追求」に資するものとなっていたことを指摘した。 論文作成の過程で、従来から指摘されてきた修道院経済の合理性を霊的コンテクストからも再検討することの必要性がますます明らかになってきたといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
トネアットなど、教会組織において合理性追求と霊的救済の追求が不可分のものであったとする研究を摂取することでカロリング期社会変革のコンテクストがより鮮明となり、資料分析の深化が実現した。これによって最終年度における研究とりまとめの道筋が見えてきたため、(2)の判断とした。
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Strategy for Future Research Activity |
現在の研究において主要な史料となっているアダラール指令書の研究資源化、また研究成果の客観化をめざして日本語の試訳を完成させる。また修道院経営における霊的コンテクストの重要性を指摘する近年の動向を踏まえつつ史料分析を進め、カロリング期社会変革における教会エリートの、単なる行政技術者ではない、キリスト教的言説や民衆教化に習熟した存在という側面が社会変革に及ぼした影響の再検討を試みる。またその成果を研究協力者が進めてきたカピトゥラリア研究と対比・接続し、社会変革における教会エリートの役割に迫り、カロリング期社会変革の基本性格の一端を明らかにすることをめざす。
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