2012 Fiscal Year Annual Research Report
「常陸国風土記」にみえる律令期以前の歴史的景観復原に関する実証的研究
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22520760
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
田中 裕 茨城大学, 人文学部, 准教授 (00451667)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 常陸国風土記 / 建評記事 / 台渡里官衙遺跡群 / 二所神社古墳 / 平沢3号墳 / 愛宕山古墳 |
Research Abstract |
平成24年度は、『常陸国風土記』の「建評記事」に注目し、常陸国の中でも、国造国から評、そして郡に再編成された地域の政治的中心地を把握するために、平成23年度までに発掘調査、測量調査、地名聴取調査を実施した「那賀郡家周辺遺跡」と、「筑波郡家周辺遺跡」について、調査報告書を作成するための整理作業を実施した。 整理作業は、「那賀郡家周辺遺跡」では国指定史跡:茨城県水戸市台渡里官衙遺跡群発掘調査とその周辺における地名聴取調査、そして水戸市二所神社古墳測量調査の各成果を対象として実施した。また、「筑波郡家周辺遺跡」では、つくば市平沢3号墳発掘調査の成果を対象とした。このうち、発掘調査資料である台渡里官衙遺跡群と、平沢3号墳については、出土品の選別、実測、拓本、製図の一部を終了し、遺構の図面合わせを行い、一部、本文の執筆に着手した。また、測量調査資料である二所神社古墳については、測量図の図面合わせと製図を行うとともに、表面採集による土器等の遺物資料について、選別、実測、拓本採取を行った。地名調査については、地図情報の整理を行い、成果のカード化とファイリングについておおむね終了して、情報の分析に着手した。以上の整理作業は、ほぼ年度計画のとおりに進められ、当初計画に盛り込んだ、平成25年度の報告書の刊行に向けては、一定の目処をつけることができたと思料する。 整理作業に併行して、「那賀郡家周辺遺跡」の実地調査の一貫である、国指定史跡:水戸市愛宕山古墳の測量調査を実施した。同調査も当初計画に盛り込んだものであるが、圧縮された予算を考慮して、平成23年度より長期計画に変更し、可能な範囲で実施しながら、実現を目指しているものである。平成24年度は土地所有者の了解を取り付け、国指定史跡であることに伴う法令上の手続きも完了した上で、実地作業を行い、古墳本体の30%にあたる、約3000㎡分を終了した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、『常陸国風土記』の「建評記事」に関連し、国造国から評、そして郡に再編成された地域の政治的中心地を対象に、歴史的景観を実証的に復原するため、基本的なデータの蓄積が必要であった。この点で、平成24年度までに、当初計画に盛り込んだ調査について、おおむね実施できており、かつその成果を公表するための調査報告書についても、ほぼ計画通りの工程にて整理作業を実施してきている。したがって、当初計画の通り、平成25年度に予定している報告書刊行については、可能であると見込んでいる。 調査対象としたもののうち、「那賀郡家周辺遺跡」では、台渡里官衙遺跡群発掘調査資料の整理、地中探査による非破壊把握、地名聴取調査による土地利用情報の把握、那賀国造の奥津城である可能性があった二所神社古墳測量調査を計画通り実施した。これらを通じて、那賀郡家周辺の景観復原に寄与する基礎データは順調に蓄積されてきている。また、同時併行で計画した国指定史跡:水戸市愛宕山古墳の測量調査については、圧縮された予算では実現が困難ななかでも、予算に合わせて実施方法を調整しながら実施し、着手にこぎ着けることができている。 一方、「筑波郡家周辺遺跡」では、平沢3号墳を分析し、国造国から郡に再編成される過程における国造氏の動態を考古学的に描き出すことに成功し、すでに一部の成果を公表した。この成果をさらに確実なものとするため、詳細なデータを報告書に掲載するべく、整理作業を実施している。 以上のように、当初研究目的に対して期待された成果が、ある程度得られてきている。これらの成果に係る調査報告書の刊行についても、当初計画のとおり、平成25年度刊行を見込んでおり、研究はおおむね順調に進展していると思料する。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は平成25年度までの計画である。研究計画を達成するのに最大の問題は、当初申請額に対する大幅な予算圧縮である。その中では、当初計画のなかで予定した調査について、最大限達成することを優先し、遂行してきた。 平成25年度は、これまで実施してきた調査成果について、当初の計画通り、報告書にまとめて刊行する予定である。なお、申請したなかでもっとも大型の調査であった愛宕山古墳測量調査については、当初計画通りでは予算上の困難を生じたため、長期計画で実施することに振り替えている。このため、平成25年度も継続予定である。したがって、その成果については刊行予定の調査報告書での公表は検討の余地があり、状況によっては、投稿などの方策により別途公表することも視野において、調査を継続する。 報告書刊行においては、投入できる予算も少ないことから、平成25年度は予算の大半を刊行費に振り向ける。ただし、それでも紙数を大幅に圧縮せざるを得ないため、可能な限り簡潔にまとめる必要がある。本研究は実証的研究であることから、基礎データとなる遺跡調査の事実報告が、もっとも重要である。このことを考慮し、報告書作成に当たっては、遺跡調査の事実報告を最優先に盛り込む方向で、調整予定である。
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