2012 Fiscal Year Annual Research Report
植民地後和解の人類学的研究―ドイツと旧アフリカ領との関係を事例として
Project/Area Number |
22520813
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
小田 博志 北海道大学, 文学研究科, 准教授 (30333579)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 歴史和解 / 平和研究 / 植民地主義 / ドイツ / アフリカ |
Research Abstract |
2012年9月にドイツで、2013年3月にナミビアで現地調査を行なった。 ドイツでは、ナミビアおよびタンザニアと関わりのある人物、機関を訪ねてインタビューならびに資料収集を実施した。ナミビア大使館では大使と面会して、2011年に行なわれたナミビアへの先住民族の遺骨返還について情報を得ることができた。ドイツ側のアクターであるベルリン医大遺骨プロジェクトのスタッフとのインタビューでは、同じ出来事に対する研究機関の視点からの語りと資料を入手した。さらにベルリン在住のナミビア系住民とのインタビューも実施できた。前年度のタンザニア調査とのつながりで、植民地期のタンザニアに足跡を残した人物ハンス・パーシェとゆかりのある人物を訪ねて新たな情報を得ることができた。 ナミビアでの調査の重点は、2011年にドイツから返還されたヘレロ人とナマ人の遺骨のナミビア側の視点と実践とを理解することであった。国立文書館でこの件に関する包括的な資料を手に入れた他、代表団に参加したヘレロ人、ナマ人メンバー、ならびにナミビア・プロテスタント教会の代表者とのインタビューを行なった。さらに植民地期に遺骨が収集された史跡を訪ね、今日のナミビアにおける記憶のあり方を調査した。加えて、ドイツ大使館で「和解イニシアティブ」の担当官から新しい動向を知ることができた。 以上の調査を通して、ドイツの植民地支配に関する記憶のあり方と「和解」概念の捉え方のずれが、ドイツとナミビア間にあるだけでなく、両国内のセクター間(民族集団、政府、研究機関、市民社会、教会等)においても多層的にみられること、そして、かつて人類学標本としてドイツに送られた人骨が、植民地期の記憶を呼び覚ます遺骨として位置づけられ、ドイツ-ナミビア間のポストコロニアルな関係性を変動させる媒介として働いていることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね計画通りに研究を進めて、成果を上げることができた。 ドイツとその旧アフリカ領であるナミビアにおいて調査を行なうことができ、本研究課題の中心である「植民地後和解」の実情が、具体的な事例に関わる資料を得ることでかなりの程度明らかになってきた。
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Strategy for Future Research Activity |
残りの2年間における研究課題の重点として、ひとつには理論枠組みの開発がある。ポストコロニアルな関係性とその変動の動因を説明するための枠組みを、アクター・ネットワーク論等を参照しながら構築していく予定である。 また事例の詳細を補って、論文ないし著書を書けるだけの資料を整えるために、ドイツと旧アフリカ領における現地調査を引き続き実施する。
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