2010 Fiscal Year Annual Research Report
周縁化する島嶼社会を支える「島での生活」の意味と価値
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22520824
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
北村 光二 岡山大学, 大学院・盛文化科学研究科, 教授 (20161490)
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Keywords | 瀬戸内海 / ヤップ島 / 島嶼社会 / 島での生活 / 持続可能性 / 受動性 / 意味と価値 / 本土 |
Research Abstract |
本研究は、徹底的に周縁化された島での生活をなんとか維持するという観点から、「世代を超えて継承されてきた生活実践」の全体像を明らかにしつつ、持続可能な地域社会において営まれるべき生活を考えるという観点から、人々の日々の活動に見出される「人間の側の受動性を前提とする生活実践」の具体例の把握することによって、島での生活の「意味と価値」を明らかにしようとするものである。本年度は、瀬戸内海島嶼部(北村と藤井)とミクロネシア連邦ヤップ島(北村と町)における現地調査を行ったが、とくに本研究の対象である島嶼社会において、「世代を超えて継承されてきた生活実践」の変容と持続を考えるうえで、ヨーロッパ近代とどのように出会い、その後の近代化への圧力のもとでその課題にどのように対処したかが重要な要因になることが明らかになった。島嶼社会においては、その影響の及び方がごく強力で,それによってもたらされる結果の個別性が極めて大きなものになると考えられるからである。 1.「世代を超えて継承されてきた生活実践」の把握 ・ヤップ社会における19世紀以後のヨーロッパ(スペイン、ドイツ、日本、アメリカ)との出会いは、過剰に抑圧的なものではなく、伝統的なものが極端な変形を被ることなく残されたと考えられるが、その具体例としての伝統的な食料生産活動を詳細に記述した。 ・その一方で、第2次大戦後のヤップ社会は、アメリカからの援助を背景に、賃金労働が人々の生計維持の基盤となり、現金経済化が進展して、生活全体の近代化が進展している。しかし、農業の機械化や栽培作物の転換などの生産の技法に関する変化は見られず、輸入食品の利用の拡大にもかかわらず、伝統的な自給食物の重要性はいまだに失われていない。 2.「人間の側の受動性を前提とする生活実践」の具体例の把握 ・ヤップの人々は、自らの食料生産活動を、より多くのより質の良い、ないしは高く売れるものの生産を志向する活動だとは考えていない。それどころか、より良質のものの生産のために工夫をしたり、高い現金収入のために新しい作物の栽培を行うことに対して、明確な忌避意戯を抱いていることが明らかになった。 3.「本土」への依存の意識と現異 ・瀬戸内海島嶼部においても、ヤップ島においても、「本土」が提供する就学機会や高い賃金を求めて、多くの若者が島を出て行くという現実は危機感を持って受け止められているが、島に残ることを選択した人々は、上記の二つの手がかりを頼りに、自らの島での生活にそれぞれ独自の「意味と価値」を見出していると考えられた。
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Research Products
(1 results)