2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22530010
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
酒匂 一郎 九州大学, 大学院・法学研究院, 教授 (60215697)
|
Keywords | グスタフ・ラートブルフ / ラートブルフ・テーゼ / 法哲学 / 法実証主義 / 法の概念と理念 |
Research Abstract |
1.「法律は法律だ」とする実証主義がナチス的不法に対してドイツの国民と法曹を無防備にしたという「ラートブルフ・テーゼ」は、ナチス期の法理論・法実務が実証主義的ではなかったという点で誤りだとする近年の議論について批判的に検討して、その成果を「ラートブルフ・テーゼについて」(『法政研究』第78巻、2011年、169-218頁)に公表した。この論文において、ラートブルフの実証主義批判は戦前から一貫したものであったこと。法律への忠実を説くヴァイマル期のラートブルフの議論はこれと矛盾しないこと、ラートブルフはナチスの政権掌握の時点でその体制を全体として不法の体制となるものと捉えていたことなどを明らかにすることにより、テーゼの趣旨が、実証主義は結局のところ恣意的となりうる権力に法の妥当根拠を求めざるをえないために、ナチス的不法に対して無防備であったとするものであったことを示した。 2.ところで、ラートブルフ・テーゼに対する疑念は、それが実証主義に責任を帰することによって、ナチス期に有効な法律をも歪曲して不法な判決を下した裁判官たちを免責しようとするものであったという主張を含意する。テーゼがこのような特別の意図をもつものでなかったことは上記の論文で明らかにしたが、ラートブルフがナチス期裁判官の責任をどのように問うたのかという問題は別個の検討を要する。この点については、戦前のラートブルフの刑法理論に遡って、平成23年度までに検討を行ってきたが、その結果、裁判官の枉法における故意と違法性の意識の関係に関するラートブルフの見解は、戦前から戦後にかけて、ある複雑な曲折を辿っていることが明らかとなった。この成果はすでにまとめており、本年度に論文として公表する。 3.20世紀の法哲学におけるラートブルフの影響と意義の検討という点については、その暫定的成果をすでに平成22年度末に報告しているが、平成23年度は引き続きその研究を発展させた。この成果も本年度中に公表する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、ラートブルフ・テーゼの評価をめぐる議論の中心問題について、検討の成果を論文にまとめて、公表することができた。また、ラートブルフ・テーゼを免責テーゼとする議論についても検討を進め、論文として公表できる段階に達した。さらに、20世紀の法哲学におけるラートブルフの影響と意義についても、本年度中に研究成果を公表するめどが立った。以上により研究課題はおおむね順調に進展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究課題であるラートブルフ法哲学の現代的意義の総合的再評価のためには、さらに少なくとも三つの問題領域の検討が必要である。その一つはいわゆる「壁の射手」事件判決にいたる戦後ドイツの裁判におけるラートブルフ定式の受容をめぐる議論の検討である。本年度はこの点の研究を進め、来年度には論文にまとめて公表する予定である。後の二つは、ラートブルフの正義論としての社会的法治国家論の検討と、自由法運動及びそれ以後における法的思考論の比較思想史的検討である。ただ、これら二つの検討は別個の研究計画を必要とし、本研究課題の目的としては、戦後ドイツにおけるラートブルフ定式の受容をめぐる議論の検討において一応達成される。
|