2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22530011
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
直江 眞一 九州大学, 法学研究院, 教授 (10125619)
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Keywords | コモン・ロー / 教会法学 |
Research Abstract |
本研究は、12世紀半ば以降におけるイングランドのコモン・ローの成立を、同時期における学識法(ローマ法・教会法)の展開の中で的確に位置づけることを最終目的として、イングランドの代表的な教会法学者の著作と実務活動を写本レヴェルにまで立ち入って検討することを通して、初期コモン・ローに対する教会法学の影響を具体的に明らかにすることを目指すものである。 その作業の第一段階として、本年度は、1140年代半ばにボローニャからイングランドに渡った註釈学者ヴァカリウス(Vacarius)の実務活動を主たる研究対象とした。ヴァカリウスは1150年代後半以降カンタベリからヨークに活動の拠点を移しているが、教会裁判官として活躍した記録がいくつか残されている。一方で、刊行中のイングランド司教文書集(English Episcopal Acta)からは、証人リストの中でヴァカリウスが登場する証書を抽出した。他方、より重要な点として、教皇受任裁判官としての活動を示す史料が残されている。その中でとくに注目に値するものは、ノッティンガムシャーのエルストン教区教会をめぐる事件である。この事件の記録はローマ教皇ウルバヌス3世の教令(JL15740,JL15741)の中で伝来している。この教令を収録している写本は多数存在するが、とりわけ訴訟手続に関する当該教令の全体を伝えている写本は英国図書館(British Library)所蔵のコットン写本集の中に収められている(Cotton Vitellius,13)。また、ダラム聖堂付属図書館蔵の写本(Durham Cathedral Library MS C,III,3)とリンカン聖堂付属図書館蔵の写本(Lincoln Cathedral Library MS 121)も重要である。そこで9月に英国に出張し、これら3写本を実際に閲覧し、比較・検討した。当該教令は最終的に『グレゴリウス9世教皇令集』(Liber Extra)に収録されるが(X2,14,4;X3,29,4)、そこでは具体的な事件の解決がかなりの程度抽象化される形で法規範が定立されていることを確認することができた。
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