2012 Fiscal Year Annual Research Report
医療事故をめぐる過失観念の構造と変容:ナラティヴ・アプローチによる解析
Project/Area Number |
22530017
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
和田 仁孝 早稲田大学, 法学学術院, 教授 (80183127)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 過失 / ナラティヴ / 医療事故 / 医療制度 / 医療紛争 |
Research Abstract |
2012年度は、これまでの医療関係者へのインタビューの成果をまとめつつ、医師、看護師、および患者や医療事故被害者へのインタビュー調査を補充的に実施してきた。質問紙調査については、パイロットサーヴェイを実施し、現在、その成果とインタビュー調査のナラティヴデータを分析しつつ、質問紙の完成に向けての作業を行ってきた。 このほか、より広い医療制度の制度的課題と、個々の医療者の過失認識の相関をも視野に収めるため、医療制度全般についての聞き取りなども行った。具体的には医師の過重労働についての現況データの収集、日本の医療者人口や病床数と海外のそれとの比較等々である。これにより、我が国の医療制度は、国民皆保険のもとで国民の医療へのアクセスは入院も含め、極めて安価で容易であり、優れたパフォーマンスを示しているが、これを支えているのは、医療施設や病床数が人口比で多いこと、患者の受診頻度も突出して高いことなどの特徴であり、結果的に、医療者の勤務環境の過酷さに依存していることが明確になった。医療者の過失認知は制度的環境とそれに伴う患者の期待値の多寡さとの相関で捉えていく必要が明確となった。 またこの過程で、様々な形で、中間的成果の公表を行ってきた。学会発表については海外では、1)Law and Society Association Annual Meeting (5月・ハワイ)、2)URMPM World Conference (9月ロンドン)、3)Asia Pacific Dispute Resolution Workshop (12月早稲田)、4)East Asian Law and Society Association (3月上海) でそれぞれ英語による発表を行った。国内学会では、1)医療マネジメント学会(10月長崎)、2)医療コンフリクト・マネジメント学会(1月東京)にて発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
基本的に当初の予定通りに研究自体は進行している。研究成果の公表については、中間的に得られた知見でも有益と思われるものが多く、国際学会、国内学会いずれにおいても、当初の予定以上のパフォーマンスを示すことができていると自負している。 他方で、調査、とりわけ質問紙調査については、当初の予定と比べ、サンプル数が限定的で、いまだ補充の必要を感じている。これについては、当初の想定の範囲内で、次年度計画の中で、補充できるものであり、想定の範囲内といえる。 以上より、総合的にみて、若干の補充の必要と、予想以上の成果の両面があることを踏まえて、評価としては「おおむね順調に進展している」と評価するのが妥当と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、最終年度であり、質的データの収集を続けるとともに、背景のアクターごとの一般的観念の構造、その社会制度的特質との関連なども含め、分析を継続する。さらに、質問紙調査も補充し、立体的に過失をめぐる医療者の認知と、医療制度の認知後世への影響などを解析し、公表していくことを目的とする。具体的には次のような形で実施する。1)サーヴェイの結果、事故当事者へのインタビュー調査の結果を踏まえて、過失等の観念の構造に関する仮説モデルを構築し、理論的整理を試みる。2)事故当事者へのインタビューについて、必要な補足調査を行う。特に患者側のデータが不足する場合には、別途患者団体等を通じて対象を確保する。3)海外においても、制度的な差異の影響などの観点も踏まえ、さらにインタビュー調査を実施する。これにより過失観念の文化比較が可能となる。4)業界紙等報道記事、公的文書、判例、病院施設の内部文書については、継続して分析を進める。5)また、ここまでの研究に関連する成果として、すでに、『医療メディエーション:コンフリクト・マネジメントへのナラティヴ・アプローチ』を出版したほかいくつかの論文も公表したが、さらに成果を適宜まとめて公表していく。6)また、本研究にかかわる学会発表として、今年度も、国内では、医療マネジメント学会などでの発表を予定しているほか、海外では、5月末にボストンで開催されるLaw and Society Association Annual Meeting において論文は票の予定である。また既に4月15日には、カナダのブリティッシュ・コロンビア大学Green College Lecture Series の一環として、本研究成果に基づく講演を行った。また11月には、台湾にて、シンポジウムで研究発表を粉うことが予定されている。
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