Research Abstract |
第一に,国際不法行為の領域における絶対的強行法規の抽出を行うことにより,絶対的強行法規が単に当事者自治原則に対する制約要素に止まらず,広く通常連結を制約する要素として位置付け得ることを明確に示した。具体的には,我が国およびドイツにおける判例および学説の展開を整理した上で,不正競争防止法における各規定の絶対的強行法規性の検討を行った。その結果,我が国の不正競争防止法は市場法として重要な位置付けにある法律の一つであるが,数度の法改正を経て,各規定の絶対的強行法規性が強化され,通常連結によるべき局面が次第に制限される傾向にあることが看取された。 第二に,絶対的強行法規は,抵触法上「特別連結」として,「通常連結」とは別の連結ルールにより規律されているが,特別連結概念が指し示す具体的内容を精査することなく,同概念が使用されてきた経緯があるように思われる。平成23年度においては,こうした経緯を踏まえて,抵触法上の連結の意義にも言及しつつ,「特別連結」と「通常連結」の関係を如何に整理すべきかについて考察を加えた。また,絶対的強行法規の適用が単に抵触法上の問題に止まらず,実質法上の問題をも併せて孕むことを踏まえて,実質法・抵触法双方の視点から,絶対的強行法規の適用を分析し,試論を提示した。 第三に,絶対的強行法規と公序則との関係について理論的な整理を行った。特にドイツでは両者を同一視する見解も主張されているが,国際的な法の適用局面における両者の機能的役割に着目して検討を行うことで,両者の本質的な相違点について試論を提示した。 なお,第四に,絶対的強行法規の適用問題に付随して,通常連結および国際裁判管轄等その他周辺領域の研究についても,適宜判例評釈の形で実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は,絶対的強行法規概念について,欧州の立法例やドイツ等の学説・判例を参照しつつ,我が国抵触法体系に即して同概念の現代的意義と機能的役割を検討することにある。現在までに,欧州の立法例やドイツの判例・学説を踏まえて,(1)絶対的強行法規概念の射程および要件を明確化したこと,(2)当事者自治概念に対する制約としての同概念の機能を検証したこと,(3)消費者・労働者保護にかかる抵触規定との異動関係について整理を行ったこと,(4)公序則との異動関係についても考察を加えたこと等,順調に作業を終えている。そのため,絶対的強行法規概念の動態的・機能的把握に向けた具体的な検討はかなりの程度進展しているものと評価する。また,近時注目されている国際不正競争の領域を題材として,通常連結に基づく準拠法の如何にかかわらず,特別連結により,我が国の不正競争防止法中の条項が絶対的強行法規として適用されることにつき検証するなど,研究の過程でその実践的有用性にも配意していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
上記11.で示したとおり,個別論点についての具体的な検討は着実に進展し,個々大凡の結論は得られていることから,今後は,これら個別論点の成果を踏まえて,本研究課題の最終的な取りまとめを行うことに注力する。特に,抵触法体系における通常連結と特別連結の位置付けについては,性質決定論における両者の交錯や国際的な法の適用局面における実質法と抵触法の相互作用等に留意しつつ,抽象的なレベルでの検証に研究の重点を移しているところである。この点に関しては,昨年5月の国際私法学会の報告内容に対して他の研究者から提示された問題意識や疑問点を足掛かりにして,自身の見解を再度検証し,抽象的なレベルでの考察の深化を図る所存である。
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