2013 Fiscal Year Annual Research Report
非国家主体に対する国家の管轄権行使に関する国際法の研究
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22530047
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
水島 朋則 名古屋大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (60434916)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 国際法 / 非国家主体 / 管轄権 / 主権免除(外国国家免除) / 投資仲裁 / 拷問禁止条約 / 普遍管轄権 / 訴追するか引き渡すかの義務 |
Research Abstract |
本研究は、これまで研究代表者が行ってきた「外国国家に対する国家の管轄権行使に関する国際法」研究を発展させる形で、「非国家主体に対する国家の管轄権行使に関する国際法」の現代的構造を解明しようとするものである。これまでの研究で得た知見を活かしつつ、現代の国際法が、さまざまな分野における非国家主体に対する国家の管轄権行使をどのように規制しているのかを明らかにし、それを前提として、国家は非国家主体に対してどのように管轄権を行使すべきであるのかを提示することが、本研究の目的である。 本研究5か年のうち4年目である平成25年度は、過去3年度と比べても多くの研究業績をあげることができた。例えば、外国国家と非国家主体との中間的存在である未承認国に対する国家の管轄権行使に関わる日本の最高裁平成23年12月8日判決や、外国の元首に対する国家の管轄権行使に関わる国際刑事裁判所の決定について、それぞれ評釈を雑誌に公表した(前者は英文による)。また、公表した論文においては、投資仲裁判断(投資家対投資受入国)についての執行管轄権の行使に関する問題を取り上げ、執行免除の範囲を拡大する近年の実行について、批判的に検討した。別の論文では、拷問禁止条約の下での国家の刑事管轄権行使のあり方に関わる問題を取り上げ、国際司法裁判所2012年7月20日判決が用いた「当事国間対世義務」や「普遍管轄権」という概念について考察した。学会等での口頭発表も、研究課題に関わる問題について、外国で3回(英語)、国内で1回の発表の機会があり、国内外の他の研究者から有益な示唆やコメントを受けることができた。これらの口頭発表に基づく論文の執筆を進めるとともに、非国家主体に対する民事管轄権の行使に関わる重要な国際法問題を提起した米国連邦最高裁2013年4月17日判決(キオベル対ロイヤル・ダッチ石油)を素材とした研究にも着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
現在までの4年間において、本研究の成果を含む単著(本文335頁)をまとめて出版することができたのに加え、本研究課題に取り組む以前と比較して多くの論文や判例評釈を雑誌等において公表することができた(英語によるものを含む)。現在執筆中あるいは執筆をほぼ終えた論文で、最終年度(平成26年度)中に発表されることが見込まれているものも、英語によるものを含めて5件程度ある。また、学会等での報告公募(call for papers)等に応募して採択され、4年間で6回の口頭発表の機会が与えられ、うち5回は英語によるもの、4回は外国で開催された学会等での発表である。これらは、当初の計画よりも研究が進展していることを示すものであると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、今後は1年間を残すのみであるが、まずは、非国家主体に対する国家の民事管轄権行使に関わる重要な国際法問題を提起した米国連邦最高裁2013年4月17日判決(キオベル対ロイヤル・ダッチ石油)について、前年度に引き続き、分析する。この事件では、国際法違反に基づく不法行為訴訟において米国の(民事)裁判管轄権行使を認める外国人不法行為法(Alien Tort Statute)の適用範囲(領域外適用)が争点であったが、この点に関する米国連邦最高裁判決(および少数意見)を批判的に検討し、研究成果を論文にまとめる。 また、非国家主体の一類型とも言える国際機構に対する国家の管轄権行使に関する国際法の研究に取り組む。具体的には、国際機構に対する国家の管轄権行使を禁止する国際法(国際機構の管轄権免除)の問題を取り上げる。国際機構の管轄権免除に関する研究は、かつては、関連する条約規定の単なる解説的な記述にとどまりがちであった。しかしながら、国際機構に管轄権免除を与えることにより私人が提起した民事裁判を却下することが、欧州人権条約で保障された「裁判を受ける権利」に違反するかどうかが争われたWaite事件において、欧州人権裁判所が「代替手段の存否」という基準を強調してからは(1999年判決)、諸国の裁判例においてもこの欧州人権裁判所判決の影響を受けた変化が見られていた。そのような中で、欧州人権裁判所は、Mothers of Srebrenica事件(2013年6月11日決定)において、Waite事件で強調したはずの「代替手段の存否」という基準を実質的には撤回するかのような判断をしており、この決定の意義と問題点について、他の非国家主体(私人・私企業)に対する国家の管轄権行使との比較という視点にも留意しつつ研究を行い、これも研究成果を論文にまとめる。これらをもって、本研究課題の総括とする。
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