2012 Fiscal Year Annual Research Report
日仏における債権法改正と瑕疵担保責任の比較法的検討
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22530091
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
野澤 正充 立教大学, 法務研究科, 教授 (80237841)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 瑕疵担保責任 / 債務不履行責任 / 大陸法 / 英米法 / 売買契約 / 双務契約 / 危険負担 / 債権法改正 |
Research Abstract |
本研究は、瑕疵担保責任の法的性質について、フランス民法における議論の沿革をたどるとともに、わが国の通説的見解であった「特定物のドグマ」を前提とする見解が形成される以前の明治・大正期の通説的見解を再評価するものである。すなわち、瑕疵担保責任は、債務不履行責任とは異なる無過失責任であり、その根拠は、「事変による損害は所有者が負担する」(casum sentit dominus; res perit domino)という原則に基礎づけられた、広い意味での危険負担(給付危険の負担)の法理に存すると考える。 ところで、瑕疵担保責任の本質が給付危険の負担であり、その性質が無過失責任であることは、売買の双務性から基礎づけられる。そうだとすれば、瑕疵担保責任も契約責任である。しかし、瑕疵担保責任が契約責任であることは、直ちに債務不履行責任であることを意味せず、両者は次の点において区別される。 まず、要件の点では、瑕疵担保責任が債務不履行責任であるとすれば、給付危険というリスクの分配を定めるのも、当事者の合意によることになる。しかし、法定責任である瑕疵担保責任は、そのリスクの分配を個々の契約ではなく、法律が定めるものである。すなわち、大陸法では、「物の所有者が危険を負担する」(Res perit domino)との原則により、物の滅失・損傷については当初から売主がその危険を負う。そして、瑕疵という給付危険の分配基準(【3.2.1.16〈2〉】を法定し、その法定責任として性格を残している。 また、効果の点でも、瑕疵担保責任の効果である代金減額請求と解除については、瑕疵が不可抗力によって生じた場合であっても売主の免責が認められない、とするのが国際的動向である。そしてこのことは、債務不履行責任に解消されない瑕疵担保責任の法定効果であると解される。結論としては、瑕疵担保責任は法定の契約責任である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、日仏における民法(債権法)の改正に際して、その主要な論点となる瑕疵担保責任を中心に、債務不履行責任との関係を意識しつつ、比較法的な観点から、その本質を明らかにするとともに、将来の制度のあり方についての提言を行うものである。この研究目的の観点からは、瑕疵担保責任が、債務不履行責任とは異なる無過失責任であり、その根拠は、「事変による損害は所有者が負担する」(casum sentit dominus; res perit domino)という原則に基礎づけられた、広い意味での危険負担(給付危険の負担)の法理に存するとの結論は、長い間議論されてきた瑕疵担保責任の法的性質論に新たな知見を加えるものであり、研究成果としては十分なものであると考えられる。それゆえ、本研究目的の達成度としては、「順調に進展している」といえよう。 しかし、上記の結論に達する過程である、ウィーン売買条約の検討は、未だ十分ではない。現在、立教法学に連載中の「瑕疵担保責任の比較法的考察」も、ウィーン売買条約が公布された1980年代の議論の部分のみ、論述されていない。もっとも、ウィーン売買条約の内容は、その前進となる1967年のハーグ国際統一動産売買条約と同じであり、その検討はすでに終わっているため、研究全体の達成には特に支障はないと考えられる。 したがって、本研究の目的は最終年度(平成26年度)までには十分に達成することができ、現在のところ本研究は、「順調に進展している」といえよう。
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Strategy for Future Research Activity |
繰り返しになるが、本研究は、日仏における民法(債権法)の改正に際して、その主要な論点となる瑕疵担保責任を中心に、債務不履行責任との関係を意識しつつ、比較法的な観点から、その本質を明らかにするとともに、将来の制度のあり方についての提言を行うものである。その課題を達成するために、今年度は、次の2つのことを今後の推進方策として、予定している。 1つは、上記の【現在までの達成度】に記したように、現時点で不十分なウィーン売買条約の検討を十分に行い、立教法学に連載中の「瑕疵担保責任の比較法的考察」を区切りのよいところまでまとめる予定である。 もう1つは、同論文を単行書として刊行することである。もっとも、刊行に際しては、さらなる助成金が必要であるため、今年度中の刊行は不可能であるが、今年度中に論文を完成し、来年度の初めに刊行に向けての活動を行う予定である。 この論文は、長い間、わが国では議論され続けてきた瑕疵担保責任の法的性質論を明らかにするものであり、その学術的な意義および実務に与える影響は大きい。そこで、是非とも、早期の完成と出版に向けて努力をする所存である。 なお、本研究課題の1つであるフランスの瑕疵担保責任については、すでにその沿革を紹介する論文を公刊している(「フランスにおける瑕疵担保責任の法理」野澤正充編『瑕疵担保責任と債務不履行責任』〔日本評論社、2009年〕83ページ以下)。しかし、フランス法の沿革についても、今年度からその検討に着手したい。
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Research Products
(3 results)