2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22530102
|
Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
秋葉 悦子 富山大学, 経済学部, 教授 (20262488)
|
Keywords | 医師職業倫理 / 人格主義倫理学 / ヒポクラテスの医の倫理 |
Research Abstract |
イタリアの医師職業倫理規程は、「ヒポクラテスの医の倫理」を継承し、その現代化を図る人格主義倫理学に立脚する。1912年に初めて医師の職業倫理規程を制定したイタリア医師会では、昨年、医師会設立100周年が祝われたが、そこでも「ヒポクラテスの誓い」を保持し、さらに促進する立場が確認された。 ヒポクラテスの医の倫理の学問体系化は、最近500年ほどの間はカトリック教会によって担われてきたため、キリスト教倫理神学の領域で発展させられてきた。しかしヒポクラテスの医の倫理はイスラムやヒンドゥーなど他の諸宗教にも取り入られ、東洋の徳論とも親近性を持つ。カトリック教会でも近年、宗教や文化の相違を超えて適用可能な普遍的・自然本性的倫理学の探求が試みられている。 日本に最初にヒポクラテスの医の倫理を紹介したのは江戸時代の蘭学者大槻玄沢であると言われている。その後、日本では特に学問的な発達は見られないが、臨床現場においては現代まで着実に受け継がれて来た。イタリアの医師職業倫理規程は、上述のような共通の倫理基盤に立脚している限り、文化や医療環境の相違から具体的な対応は異なるとしても、日本にも適用可能である。 イタリアの医師職業倫理が強調するのは「科学と良心」である。医職は専門的な科学的知識を踏まえて、患者の生命と健康を促進する良心的な判断を下す倫理上の義務を負う。実際の治療における患者と医師の関係は唯一で繰り返すことのできないものであるから、一般化はできないが、個別のテーマごとに、医師が結論を出すときの助けになるような基準を設けることはできる。
|