2011 Fiscal Year Annual Research Report
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22530102
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
秋葉 悦子 富山大学, 経済学部, 教授 (20262488)
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Keywords | 職業倫理規程 / 医の倫理 / 人格主義生命倫理学 / 看護倫理 / ヒポクラテス / 公共倫理 |
Research Abstract |
イタリア医師会でのインタビューおよび収集資料から、イタリアではヒポクラテスの医の倫理に立脚する人格主義倫理学に基づく医師職業倫理の発展と拡大が加速化している様子を知ることができた。看護師職業倫理規程の改訂(2009年)、緩和ケアと苦痛セラピーに関する法律(2010)の制定、欧州医師団評議会の「医の倫理欧州憲章」(2011年)の策定は、その一端である。特に後二者はイタリア医師会の強いイニシアティブによって実現した。 イタリア看護師会でのインタビューおよび収集資料から、看護師職業倫理規程の改訂の趣旨は看護の倫理的次元の強調にあること、人格主義倫理学に基づいた良心的な看護ケアを現場で実践するための様々な方策が盛り込まれていることを知ることができた。特に看護現場で良心の葛藤を生じた場合の救済策として「良心条項」の適用が明記されたことと、「専門的助言」の充実が図られたことは重要な意義を持つと思われる。また、弱者優先の思想が、看護師の間で、専門科別の入院病棟ではなく、重篤度別の入院病棟という新たな発想を生み、一部地域で試行されて成功しているという。 人格主義倫理の実践の様子は、これまでにイタリア看護師会の幹部を多数輩出してきたカトリック系高齢者介護施設Cottolengo(本部設立は1833年)を訪問し、施設長、職員、入所者と直接対話した。重篤な入所者も少なくなかったが、平穏な日常生活が営まれており、職員も入所者も満足そうであった。イタリアでも近年問題になっている虐待は皆無とのこと、この問題も職員の養成の問題に尽きるとの認識であった。 イタリア国立高等保健研究所でのインタビューおよび収集資料から、国家レベルの取り組みとして、医療従事者-患者の枠組みでは捉えることのできない、公共財としての医療の公正な配分に視座を置いた「組織倫理学」の構築が試みられていることを知ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題はイタリアの医師職業倫理規程の調査、検討を通して、わが国の議論の参考に供することを目的とするが、これまでの研究で、イタリアの医師職業倫理規程の依拠する人格主義倫理学の概要、臨床現場と他の医療専門職の職業倫理、国家の医療政策、また国際レベルにおける具体的な影響力について概ね把握することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
日本の医事法制とアカデミズムにおける医療倫理は、個人主義生命倫理学の強い影響下にあるが、日本の臨床現場の医療従事者のメンタリティにおいては、イタリアの医療従事者の職業倫理が依拠する人格主義倫理学が共有されている。 人格主義倫理学においては、人格主義の見地からの個人主義生命倫理学の検討、評価、問題点の指摘を通してよりよい医療のあり方、そのための医の倫理と医事法の構築が試みられている。 今後の研究では、日本の臨床現場および医事法制への具体的な提言を行うことを念頭に置きながら、これまでの研究によって明らかになった知見の分析と統合を行う。
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