2011 Fiscal Year Annual Research Report
西欧地域における社会的結束をめぐる政策言説と政治過程の変化
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22530118
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
若松 邦弘 東京外国語大学, 大学院・総合国際学研究院, 准教授 (90302835)
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Keywords | ヨーロッパ政治史 / 比較政治 / 政治過程 / 政策言説 |
Research Abstract |
本年度は、前年度までの作業によって政策言説の顕著な変化が確認された1990年代半ばから2000年代初めの時期への影響を念頭に、1990年代前半期の関係者の認識を分析した。 自治体、国家、超国家(国際)との3焦点において、今年度の分析作業でとりわけ興味深い知見が得られたのは、地方自治体に関する部分である。イギリスのバーミンガム市政について、1980年代の政策モデル確立から1990年代後半における新たなモデルへの交替に至る過程において、個人性を重視した政策理念の段階的浸透を確認できた。 また国際レベルでの変化では、社会的結束に関する活動が顕著となるに先立って1980年代後半に、イギリスの政策言説が、欧州審議会の組織内で北部ヨーロッパ諸国の実務家・専門家を中心に先行モデルとして注目されていたことを確認でき、この人的ネットワークを母体に1990年代前半、ドイツなど中部ヨーロッパでの民族的要素を含む社会対立の激化を契機に新たな政策言説が創出され、局面の変化が生じたことが類推されるに至った。 これらの知見は1980年代後半から90年代にかけての資料に基づき得たものであるが、その作業過程で今年度は2回の現地調査により、西欧各国(イギリス、フランス、フィンランド、オランダ)で文献の収集と当時の政策関係者からの聞き取りを行った。年度当初、この作業は5月と11月を予定していたが、11月分については補助金の一律3割交付凍結の影響で実施が困難となったため、以後年度内の日程に照らして、年度末ぎりぎりの3月下旬の実施とならざるをえなかった。その際に収集した資料の分析は本報告時点で未了となっており、上記の知見のうち国際機関に関する部分は暫定的なものである。この時間的な遅れはあるものの、現地での資料収集自体は内容の点で満足しうるものであったことから、上記事象の影響は最小限にとどまると見ている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」に記載した予期せぬ理由によって、スケジュール的には若干の遅れが生じたものの、分析のデータとなる資料自体は年度内に収集できたことから、次年度にかけその分析にやや大目の時間をとることで、年度半ばには十分に当初予定のスケジュールに戻り、研究期間終了時には想定どおりの達成度に至る見込みが立っているため。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の最終年度となる次年度は当初のスケジュールに従い、研究全体のまとめを行う。年度の後半に向かって、政策言説と政治過程の連関に関する仮説とこれまでの事例検証をもとに、民族・文化イシューの主流化をめぐる一般命題の追及と理論的考察を行う。 今年度に続いて資料に基づく分析を進める視角については、年度の前半にその作業を完了させる。具体的には、イギリス政府の施策を対象とした国家レベルにおける政策言説の変化と政治過程の関係の検討、ならびに前年度のスケジュール変更により未了となっている欧州審議会における言説の局面変化の検討である。 前者についての資料収集を主たる目的に、当初の予定通り、年度前半にイギリスでの現地調査を実施する。
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