2011 Fiscal Year Annual Research Report
現代フランスにおける共和主義・多文化主義・レイシズム―その連関と克服
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22530125
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
長谷川 一年 島根大学, 法文学部, 准教授 (00399049)
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Keywords | 政治学 / 社会学 / フランス / 思想史 / レイシズム / 政治思想 |
Research Abstract |
平成23年度は、フランス共和主義の現代的展開について、その代表的論客として知られる社会学者ドミニク・シュナペールの政治理論を中心に検討した。彼女は幅広い領域で数多くの業績をものしているが、共和主義を扱った主要著作として『移民のフランス』、『市民の共同体』、『福祉国家民主主義』、『市民権とは何か』を取り上げ、あわせて関連論文数編に分析を加えた。 シュナペールは、アメリカの多文化主義とは一線を画す一方で、教条的な共和主義をよりリベラルな方向に修正していく「寛容な共和主義」の立場にたつ。彼女は、現代国家が人種的・宗教的に多様なメンバーから構成されている事実を前提にしながら、そうした多様性を超越する場として、また平等な市民権を保障する制度として、ネーションを維持・発展させていくべきであると考える。私見によれば、それは近年イギリスを中心として活発に議論されている「リベラル・ナショナリズム」と共通点をもつ。 平成23年度の具体的な研究成果としては、シュナペールの主要著作のひとつである『市民権とは何か』(風行社刊)を翻訳出版するとともに、『「リベラル・ナショナリズム」の再検討』(ミネルヴァ書房刊)において、シュナペールの共和主義をリベラル・ナショナリズムの潮流(具体的には、その代表格と目されるデイヴィッド・ミラーのナショナリティ論)との接点を探りつつ検討した。わが国の政治理論、とりわけナショナリズム研究は、もっぱらアングロ・サクソン圏の議論に依拠しているが、上記の研究はそうした偏りを是正するという意義も有するであろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画に従って、ドミニク・シュナペールの政治理論を検討することを通して、現代フランスの共和主義の基本的発想、ならびにそれが多文化主義を拒否する論理について、理解を深めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
ドミニク・シュナペールとともに、現代フランスにおいて「寛容な共和主義」の一翼を担っているソルボンヌの哲学者、アラン・ルノーの政治理論を中心に検討を進め、シュナペールの立場との理論的相違を解明する予定である。これによって共和主義の多様な相貌をより立体的にとらえることができるように思われる。
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