2010 Fiscal Year Annual Research Report
国立大学法人化をめぐる政治過程:ポスト55年体制期における政策過程の持続と変容
Project/Area Number |
22530126
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
谷 聖美 岡山大学, 大学院・社会文化科学研究科, 教授 (40127569)
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Keywords | 政策決定 / 非決定 / インクリメンタリズム / ゴミ缶モデル / 利益政治 / 55年体制 / 官僚制 / 新自由主義 |
Research Abstract |
この研究の目的は、国立大学法人化という高等教育政策における大きな変化を政治学の観点から説明することである。いうまでもなく、高等教育に関する研究自体は長い歴史を持っており、その蓄積は厚い。しかし、イデオロギー批判的なものを別にすれば、そのほとんどは教育学の観点から行われたものであり、政策形成や利益間関係の変化など引き起こした(あるいは抑止した)政治的力学を分析したものはきわめて少ない。 そうしたなかで、T.J.ペンペルとL.ショッパという二人のアメリカ人が行った研究は政治学の理論モデルや概念装置を正統的手法で用いた数少ない業績であり、私の研究においてはそれらを詳しく検討した。もちろん、私が改めて指摘するまでもなく、二人の研究は日本の高等教育政策に関する政治学的な研究の出発点として高く評価されるべきである。しかしながら、彼らといえども、国立大学の設置形態そのものの変更という重要なイシューについてはこれを全く取り上げていない。それは、彼らの研究期間に由来する制約によるものと一応は考えることができる。実際、私自身も当初の研究計画を練り上げる過程で、彼らの著作からこのイシューが欠落していることを特に問題にしようとは考えておらず、本研究においては国立大学の「独立行政法人化」をその是非自体も含めてともかく検討する、ということが閣議決定された1990年代末期から分析を始めればよいと考えていた。それは、2004年の立法化に至る政策過程が政治アリーナで実際に動き出したのは小渕政権期においてであり、高等教育政策とは無関係の政策目的を追求する便法として利用されたからである。すなわち、国立大学の独立行政法人化は、高等教育政策ではなく、行政改革推進という別の政策領域における派生的イシューとしてアジェンダに上ったに過ぎずなかったのである。にもかかわらず、それは高等教育敬策の中心的領域に大きな変化をもたらした。従って、そのような一見イレギュラーなプロセスを分析することによって、政策決定過程論の知見に何がしかの貢献をすることができると考えていたのである。 しかし、資料を集め、分析を進めるうちに、名目は何であれ国立大学の法人化が行政改革の一環として実現されたとするなら、それは当然中曽根内閣と臨調の時代に大きな争点として浮上していた方が自然であるはずだが、その時期にはこの問題は一応はアジェンダに乗りかかったものの実際には具体化するまでには至らなかったのはなぜか、という疑問を抱くようになった。さらには、法人化が最初に政府の公式文書で取り上げられた点で注目される1971年の中教審答申も政治的には当時ほとんどインパクトを残さなかったのはなぜか、しかも、イシューとしてそれは潜在的に生き続け、30年を閲して突然政策決定の表舞台に登場することになったのはなぜか、といった問題意識も強くなっていった。 こうして、今年度の研究期間中、国立大学法人化の政治過程が当初の予想よりもずっと長いものであり、これと取り組むためにはゴミ缶モデルなどの理論モデルを検討すると同時に、55年体制の特質、高等教育政策に作用する利益間の力学、特に中曽根政権期に顕在化する新自由主義の日本的な表れ方など、様々な角度から検討を進めざるを得なくなった。そのため、今年度法人化そのものに関する論文を作成することができなかった。ただ、外国の高等教育政策との比較という観点からは、アメリカにおけるインターンシップの分析を行うとともに、本研究でも触れることにしていたポピュリズムに関連する論文を作成することができた。
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