2011 Fiscal Year Annual Research Report
国立大学法人化をめぐる政治過程:ポスト55年体制期における政策過程の持続と変容
Project/Area Number |
22530126
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
谷 聖美 岡山大学, 大学院・社会文化科学研究科, 教授 (40127569)
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Keywords | 政策決定 / 非決定 / 戦後改革 / 占領政策 / 利益政治 / 55年体制 / 新自由主義 |
Research Abstract |
この研究の目的は、国立大学法人化という高等教育政策における大きな変化を政治学の観点から説明することである。研究計画を申請した段階では、国立大学の「独立行政法人化」を検討するということが閣議決定された1990年代末期から分析を始めればよいと考えていた。しかし、資料を集め、分析を進めるうちに、名目は何であれ国立大学の法人化が行政改革の一環として実現されたとするなら、それは当然中曽根内閣と臨調の時代に大きな争点として浮上していた方が自然であるはずだが、その時期にはこの問題は一応アジェンダに乗りかかったものの実際には具体化するまでには至らなかったのはなぜか、という疑問を抱くようになった。さらには、法人化が最初に政府の公式文書で取り上げられた点で注目される1971年の中教審答申も政治的には当時ほとんどインパクトを残さなかったのはなぜか、しかも、イシューとしてそれは潜在的に生き続け、30年を閲して突然政策決定の表舞台に登場することになったのはなぜか、といった問題意識も強くなっていった。 そこで、今年度の研究期間中、まずは中曽根政権期の臨調と大学審の動きを中心に資料収集と分析を進めると同時に、71年中教審の答申についても資料収集や分析をおこなった。こうした研究は、政策決定過程論においてともすると無視されがちな「不決定」という問題(非決定と区別される)を理論的に考察する手がかりも与えてくれると考えられる。他方で、法人化というアイデアそのものは、実はGHQによる日本の高等教育制度改革案の中にすでにいったんは含まれていたことを発見した。大学の設立を認めるときに用いられるcharteringという言葉には、もともと「法人として認可する」という意味が当然のこととして含まれている。それを、日本側が設置認可と訳した段階で、本来含意されていた法人化の契機が脱落し、国立大学の場合には文部行政上の一機関のようになってしまい、GHQ側もそのことに気がつかないまま占領改革が終わってしまった。こうして、本年度は占領改革にも踏み込んで研究をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究実績の概要で述べたように、本年度は当初予定よりも対象範囲を広げて研究をおこなったが、その過程で想定外の事態が二つ発生した。一つは、全国学会の開催を突然引き受けたことである。これは、当初開催が予定されていた大学が東日本大震災のために開催不能となり、4月末になって急遽要請されたもので、震災関連の国際シンポジウムも同時に開催することになったために、10月までほとんど研究時間を確保することができなかった。そのあと今度は大腸癌が発見され、除去手術で入院した。こうしたことのために研究が遅れた次第である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度はまず、遅れている論文作成を加速することが最大の課題である。実際、今年度は「国立大学法人化前史:中教審46答申まで」という論文を仕上げる予定でおり、岡山大学法学会雑誌第61巻4号(2012年3月発行)にエントリーしていたが、締め切りに間に合わなかった。論文は現在執筆中で、同雑誌62巻1号に掲載の予定である。ついで、中曽根行革期における大学改革議論の政治過程についても研究を論文化し、年度末にかけてさらに法人化が最終的に実現していく過程をフォローして最終報告書を仕上げていく。
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