2012 Fiscal Year Annual Research Report
グローバル化時代のローカル・アクター:ラテンアメリカの人権NGOの発展と市民社会
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22530164
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Research Institution | Aichi Gakuin University |
Principal Investigator |
杉山 知子 愛知学院大学, 総合政策学部, 准教授 (90349324)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 移行期正義 / 集合的記憶 / ラテンアメリカ / 人権 / 市民社会 / NGO / トランスナショナル・ネットワーク / ミュージアム |
Research Abstract |
平成24年度は、以下4点の研究実績があげられる。第1に、これまでの研究の一部を杉山知子「移行期正義の発展と多様なアプローチ」(日本国際政治学会編、『国際政治』172号)として公表した。この論文は、移行期正義の先行研究の批評と現在の研究課題について、特に、国際社会の移行期正義への関与に加え、ローカルなレベルでの移行期正義のアプローチが重視されるようになってきたこと、国内政治レベルでの移行期正義の動きを過小評価すべきでないことを指摘している。第2に、これまでの研究の一部を、杉山知子「ラテンアメリカ:国際関係、国内政治、市民社会」として公表した。この論文では、ラテンアメリカにおける人権運動と市民社会について取り上げている。第3に、国際学会において、研究課題の一部の発表を行った。発表では、移行期正義に関する先行研究を批判的に検討し、冷戦後、アジア、アフリカなどで進められている紛争後の平和構築の一環としての移行期正義のアプローチと1970年代、1980年代のラテンアメリカにおける軍部官僚型権威主義社会体制下の人権侵害に対する民主化移行、民主化定着期の移行期正義のアプローチ・方策の類似点、差異について検討した。第4点として、アメリカの人権NGOを訪問し、人権NGO経験者に対し、インタビュー調査を行った。人権NGOについても、1970年代、1980年代におけるNGOの活動や使命、行動戦略と今日の活動や使命、行動戦略が変化していること、ラテンアメリカのNGOと関係についても変化が見られることが理解できた。さらに、集合的記憶形成の活動については、アメリカとラテンアメリカのNGOは、国際的な連帯を重視し、水平的な関係にあり、いわゆるブーメラン効果は見られていないこととの知見を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度には、研究目的で示したように、政治学・国際関係論分野における移行期正義に関して、権威主義体制から民主化移行期における過去の人権侵害に対する真実追究、正義達成といった過程と民主主義が定着したポスト移行期における過程についての先行研究を検討し、その成果の一部を「移行期正義の発展と多様なアプローチ」と題する論文として公表した。集合的記憶形成に関する活動については、チリやアルゼンチンなどラテンアメリカにおけるメモリアルの建立、ミュージアムの開設、公共空間を利用したパブリック・アートなどについての資料収集・整理・検討をおこない、その一部を国際学会において報告した。 また、グローバル化時代のローカル・アクターという視点では、移行期正義の議論では、国際社会による関与が強調されてきた。平成24年度は、ラテンアメリカ諸国の人権状況改善にむけて活動してきたアメリカの人権NGO関係者に対しインタビューをし、関係文献・資料収集及びその検討をおこなった。グローバル化時代において、インターネットなどを通しての広報活動は重要であるが、そのようなネットワークの広がり過程において、人的つながりが基盤となっており、かつ重要であるとの知見を得た。また、1970年代、1980年代のラテンアメリカ諸国(アルゼンチン、チリなど)では、権威主義体制下における人権侵害改善のために欧米諸国の国際人権NGOが、現地調査、現地の被害者・被害者家族と連携し、アメリカ政府に働きかけ、権威主義体制の政府に人権状況の改善を求める動きがみられた。現在においても、国際人権NGOは、アドボカシーとしての重要な役割を果たしているが、集合的記憶に関する活動などにおいては、ローカルなNGOあるいは人権侵害の犠牲者・犠牲者家族が中心であることが理解できた。これらの研究状況からおおむね順調に進展していると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度に引き続き、移行期正義に関する学際的な議論を批判的に検討するとともに、集合的記憶形成としてのミュージアム、メモリアルの建築やその機能、役割とその限界などについてアルゼンチンやチリを中心に考察していきたい。移行期正義の議論については、ラテンアメリカの多くの国に見られる過去の権威主義体制下での人権侵害に対する移行期正義・ポスト移行期正義の研究が見られる一方で、アジア、アフリカでの紛争後の平和構築としての移行期正義の研究が積極的に行われている。また、国際社会による関与を重視する先行研究がある一方で、近年ではローカルなレベルでの移行期正義の方策についての調査が進められている。移行期正義のための様々な方策について、その類似点、差異についても検討したい。集合的記憶形成については、その当事者が誰であるのか、時間の経過とともにどのような変化が見られるようになったのかも視野に入れ、引き続きこれまでの先行研究を参考にしながら検討していきたい。
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Research Products
(4 results)