2011 Fiscal Year Annual Research Report
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22530178
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
小野 善康 大阪大学, 社会経済研究所, フェロー (70130763)
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Keywords | 賃金調整 / 長期不況 / 失業 / バブル / 金融資産保有願望 |
Research Abstract |
不況の分析は、近年、ニュー・ケインジアン理論による新たな発展があるとはいえ、理論構造が非常に複雑であることから、現実の政策提言には旧来の乗数効果が使われ、景気刺激のための金額的な財政拡大の根拠になって、国債の累積を生んできた。本研究では伝統的な乗数効果の持つ意味を再検討し、金額だけの財政拡大は経済厚生に何の影響も与えず、そのため、役に立たない公共事業と失業放置はすべての意味で同等であることを示した。さらに、伝統的な乗数効果分析を所得の異なる2階級の経済に拡張し、就業者から失業者への再分配は失業者の効用を上昇されるとともに、就業者の効用も下がらないことを証明した(JMCB2011掲載)。 つぎに、本研究で構築した動学的不況モデルを少子化対策の分析に応用し、子供を持つことから効用を得て子供の数を決める家計を前提に、子育て補助金や労働所得税、養育環境整備の消費への効果を分析した。その結果、景気が好況か不況かによって、政策効果がまったく異なることが示された(JER2011掲載)。 具体的な結果について記述すると、保育園整備などの養育環境整備は、ひとりひとりの子供に費やす養育時間は減るが子供の数は増えるため、合計の労働供給は増える場合も減る場合もあり得る。これに対して子育て補助金は、子供の数を増やす効果だけを持つため、労働供給を減らす効果を持つ。親の労働供給が増やすか減らすかにより、景気に異なる効果が生まれる。もし完全雇用が成立する経済であれば、労働供給の減少は生産を減少させ、そのことが消費の減退をもたらす。これに対して、有効需要不足による失業が存在する不況のもとでは、労働供給の減少は超過労働供給の状況が緩和され、賃金の下降圧力が軽減されて消費需要が高まり,結果として需要を満たすように生産量は上昇する.このように失業の有無によって政策効果が大きく異なることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
賃金調整メカニズムのミクロ的基礎の構築、財政拡大の経済厚生への効果、動学的不況モデルの子育て政策分析への応用など、当初の目的通り順調に進み、いくつかの査読誌に掲載された。 それに加えて、現実の政策の場を見ながら、本モデルの現実の経済政策への応用についても研究を進めることができた。その成果は、『成熟社会の経済学』(岩波)として出版された。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで、ほぼ計画通りに研究が進展しており、今後の研究進展の方向も見えている。そのため、今後もこれまでの研究ペースを維持するように、最大限努力する。 特に、研究計画を大幅に変更する必要性は感じていない。
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Research Products
(10 results)