2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22530178
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
小野 善康 大阪大学, 社会経済研究所, 教授 (70130763)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 一時不況 / 長期不況 / 失業 / 金融緩和 / 地位選好 |
Research Abstract |
失業下の賃金調整メカニズムを組み込んだ連続時間でのマクロ動学モデルを使って、金融緩和や財政支出の経済効果を分析した。その結果、不況の深刻度(すなわち好況か不況か、および一時不況か長期不況か)によって、政策の効果が大きく異なることがわかった。たとえば、一時不況で金融緩和を行った場合、完全雇用に向かう経路上のすべての時点で消費が増大するが、長期不況定常状態の経済では、金融緩和は動学経路にまったく影響を与えず、需要も増大しないことが示された。さらに、財政支出の増加は、一時不況のときには短期的に消費を増やす場合も減らす場合もあり、最終的な完全雇用ではかならず減らすが、長期不況なら現在も将来も含めて消費が増えることがわかった。 つぎに、本研究で構築した不況動学理論から得られる雇用と消費の関係を応用し、現実の雇用創出政策が景気に及ぼす影響を試算した。具体的には、再生可能エネルギーへの転換を行った場合の新規雇用を試算し、はじめに、好況時にはそれが日本経済への負担になることを示した。つぎに、不況で人が余っている場合を考え、本研究で求めた雇用と消費との関係を適用して消費一般が増加することを明らかにした上で、その大きさを試算した。結果は、著書『エネルギー転換の経済効果』(岩波書店)として発表している。 最後に、非飽和的な貨幣保有願望を生み出す要因として、他人の貨幣保有額との比較という地位選好に注目し理論モデルを構築した。その結果、貨幣だけでなく金融資産一般への保有願望を前提としても、貨幣保有願望と同じ効果が得られることがわかった。また、比較対象が圧倒的に比よりも差であることを経済実験の結果を使って確かめた。さらに、他人の金融資産保有額のとの差を気にする家計の貯蓄行動が長期不況をもたらすことも示した。その結果、25年度にこの分析をさらに精緻化して、論文として完成するための土台作りができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の研究実施計画で示していた3つの目標、すなわち、①本研究で構築した不況動学モデルを金融・財政政策の効果分析に応用したこと、②日本経済のデータを使って、本研究で求めた雇用と消費との関係を試算し、エネルギー転換の経済効果に応用したこと、③本研究の基礎となる家計の選好を地位選好の理論を使って定式化したこと、がすべて達成されている。さらに、それぞれの研究で当初の目標よりも明確な結果が得られた。たとえば、一時不況と長期不況の場合の効果の明確な違い、現実的な政策についての具体的な試算などである。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで、ほぼ計画通りに研究が進展しており、今後の研究進展の方向も見えている。そのため、今後もこれまでの研究ペースを維持するように、最大限努力する。 特に、研究計画を大幅に変更する必要性は感じていない。
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Research Products
(6 results)