2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22530191
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
谷口 和久 近畿大学, 経済学部, 教授 (80268242)
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Keywords | 価格形成 / 市場特性 / ザラバ市場 / 競売買 / 人工市場 / 実験経済学 / U-Martシステム / 市場過程論 |
Research Abstract |
交付申請書の研究計画の通り,昨年度の実験結果と比較対照しながら,7月から8月にかけて価格形成のプロセスを人工市場実験にて調べた。実験に協力した学生は14名で,実験回数はコンピュータ・プログラム・マシンエージェントの参加する実験も含めると16回に及んだ。 競売買市場での価格決定は需給の一致によって実現されることはよく知られていることであるが,売買注文の決定に関して,その意思決定の中にまで踏み込んで観察すると,多くの要素が複雑にからみあったものであることが分かった。すなわち,競売買取引に参加する者が,利潤を獲得するには「安く買って高く売る」あるいは「高く売って安く買う」という単純な戦略以外にはないのであるが,約定価格を基準にとってこの戦略を考えると,時間の経過の中では,この戦略ではほとんど取引が成立しないのである。すなわち,競りが成立して後に市場に残っている注文は,取引相手を見つけることができない値の低い買い注文か,反対に値の高い売りだけであり,残った不利な注文に対しては,取引相手は存在しない。つまりそのような不利な注文に対して売買できる取引者は,市場の流れを独自に判断し意志決定を行うことができる者であり,そのような取引者が利潤を獲得できる。この独自の判断は市況が動くときによく出現することが実験から裏付けられた。即ち価格変動の大きいときに,他の取引期間と比較して,売買注文が多く出されることが観察された。 市場参加者は異なる多様な主体であり,参加者が同じような反応を下すと売買は成立しない。したがって価格も出現しない。価格が形成されるには,価値観を異にする多様な市場参加者の存在が前提となっていることが実験から確かめられた。市場における価格決定の根本的な原因・理由が実験によって明示的に確かめられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成22年度の実験によって得られた知見と比較対照を行いつつ,今年度はザラバの市場実験を重点的に行った。また参加エージェントとしては,コンピュータ・プログラム・マシンエージェントと人間の双方が参加する実験とヒューマンだけが参加する実験を行った。これらの実験を比較・検討した結果,市場の変化と人間の意志決定の関係がより鮮明にされつつある。これらの成果は国際学会と国内学会を合わせて計4回報告された。
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Strategy for Future Research Activity |
実験を分析する枠組みとして,オーストリア学派の市場過程論に注目している。オーストリア学派の市場理論の核は,市場を取引の場(空間)やそこに参加するエージェントの集合と見るのではなくプロセスと見ることにある。人工市場による競売買でも,市場を競売買の結果ではなく,時間経過のなかで成立する過程として観察することで,市場の特性と価格決定の仕組みがより明らかにされることが分かってきた。今後はオーストリア学派経済学の研究者との連携をも考えていきたい。
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