2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22530215
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
玄田 有史 東京大学, 社会科学研究所, 教授 (90245366)
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Keywords | 自営業 / 雇用創出 / 創業支援 / 地域振興 / 二重構造 / 東日本大震災 |
Research Abstract |
本年度は、日本の長期的な自営業の減少理由と新たな自営業の台頭可能性について、歴史的考察と東日本大震災からの復興における自営業の役割に注目し、研究した。高度成長期の日本では非農林漁業の自営業が急増した。背景として、地方から都市部への労働者の流入(長男以外)、労働市場の二重構造の下部構造を占める中小企業での手厚い技能継承・資金斡旋(信用金庫の紹介等)、同一職場を経験した夫婦による家族的経営などが、自営業発展の成功要因となってきた。しかし1980年以降、それらの成功要因が衰退たことが自営業の減少へとつながったことを、数量データにもとづく歴史的考察から明らかにした。しかし一方で近年、新しい自営業の台頭を支える従来と異なる社会基盤が形成されつつある。以前は家族による「強い絆(ストロング・タイズ)」が自営業の根幹を支えてきたが、1990年代以降、成長を遂げた自営業は、自らと異なる情報や経験を持つ、地域や業種を超えた「緩やかな絆(ウィーク・タイズ)」を持つ傾向のあることが、新たな自営業の持続的発展に関する仮説として浮彫りにされた。その事実は、特に東日本大震災で被災しながらもいち早く復旧・復興を遂げつつある自営業や中小企業でも顕著に観察される。厚生労働省『雇用動向調査』を用いた実証分析からは、雇用創出のおよそ4割は全体の約3パーセントの企業から生み出されている。今後はウィークタイズを有し、これらの雇用創出力のある自営業・中小企業への集中的支援が必要なことを労働経済学として初めて明らかにした点に、研究の意義と重要性がある。尚、今年度は、これらの成果を海外で出版される英文学術書で報告すると同時に、日本の一般向け読者を対象とした雑誌を通じても広く発信した。また将来の自営業を担う人材を育成するキャリア教育の教材として、中学生向けの書籍も刊行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究で計画した、経済理論を背景に、複数の大量標本を含む個票データから実証的に解明することを目的とした点について、予定どおり進展しているためである。その具体的な成果として、雇用創出が一部の企業に集中していることや、仕事(就業)に関する意欲や希望の形成には、ウィークタイズと呼ばれる社会的ネットワークが重要なことを実証的に確認できた。尚、平成23年度には東日本大震災という予想外の事態が発生したが、むしろ震災から復興する自営業を、岩手県釜石市などでつぶさにヒアリング調査を行うことにより、上記の実証研究による発見が裏付けられる面もみられた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の最終年度にあたり、平成23年度までの研究では明らかにされてこなかった点を、定量・定性の両面から明らかにしていく。特にこれまで用いてこなかった新しい大量データを用いることで、新しい自営業の就業面のみならず、生活面にも着目し、自営業が形成する社会的ネットワークの特徴などをより掘り下げて研究していく。また東日本大震災からの自営業などの復興過程の観察を継続すると同時に、不況期にも手堅い持続的な発展を遂げている福井県の自営業の特性についても明らかにしていく。現在、特に研究上の問題点は存在しない。
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Research Products
(10 results)