2011 Fiscal Year Annual Research Report
「共有地の悲劇」再考:利他的効用と資本蓄積によるフリー・ライディング・メカニズム
Project/Area Number |
22530229
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
太田 博史 神戸大学, 国際協力研究科, 教授 (50118006)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
片山 誠一 愛知学院大学, 商学部, 教授 (70047489)
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Keywords | 炭素税 / 動学ゲーム / ナッシュ均衡 / シュタッケルベルク解 |
Research Abstract |
今年度の研究は、複数の経済主体の最適行動に関する動学ゲームの構築と均衡解の導出に焦点を当てることになった。原子力発電に依存することの是非が厳しく問われるなか、火力発電によって電力を確保しなければならない場合、資源小国は少なくとも当面の間、原油の輸入を続ける必要があると思われるが、化石燃料への依存は温暖化ガスの排出による環境破壊を進めることになる。環境保全の立場からは、輸入国政府が化石燃料の使用に対して炭素税を課すことは当然の措置と考えられるが、一方で税負担が過大になればエネルギーの確保がままならなくなる消費者の厚生は悪化せざるを得ない。さらに、炭素税の永準は原油輸入国のみならず、産油国にとっても大きな関心の的になる。輸入国の炭素税率が上昇すれば、消費者が支払わなければならない石油の値段は、輸入価格が一定であっても上昇する。輸出国が従来通りの輸出を続ける、あるいはさらに輸出量を増やそうとすれば、輸出価格を引き下げなければならないかも知れない。このような状況下にある化石燃料の国際間取引に適用されるべき輸出価格と、輸入国が課すべき炭素税率はどのようにして決定されるか、またそれらの最適水準の下での各国ごとの、および両国を合わせた厚生水準はどのように求められるかを明らかにすることは極めて重要である。 この課題を解決するため、われわれは原油輸入国グループと輸出国カルテルの間の動学ゲームを定式化した。前者の政策変数は輸入国消費者に対す為炭素税率、後者のそれは原油の輸出価格である。得られた結論は、このゲームにはNash均衡が存在し、かつその解は一意であること、また、Stackelbergの解も導出でき、輸出国・輸入国を合わせた全体の厚生水準は、輸出カルテルが先導者になる場合の方が輸入国グループが先導する場合より高い。ただし、Stackelbergの解はいずれもNash均衡解の下での経済厚生を上回らないとことが数値例で確かめられた。Nash解の下での厚生氷準がStackelbergの場合の水準を凌駕することはおそらく一般的な結論として確立することができるであろうが、二つのStackelberg解の厚生水準比較は数値例の数を増やして、その一般性についての検討を重ねる必要があるものと思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、消費者の効用関数が利他的である場合にも「共有地の悲劇」が起こるかどうかを見極めることであるが、利他的効用を考える前の準備段階として、消費の「地位追及型効用関数」を用いた分析をすでに終えている。今年度は効用関数の形に関する議論をひとまず凍結した上で、資源経済に関わる複数経済主体間の動学ゲームの設定と、その社会的計画解、Nash解、Stackelberg解の導出および各体制の下での経済厚生水準の比較を行うことができた。動学ゲームの構築法を研究できたことにより、複数主体の最適行動の結果として発生する「共有地の悲劇」の可能性の分析に大きく近づいたものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究課題は、まず上記9.「研究実績の概要」の最後に記したとおり、枯渇性資源の輸出・輸入国間の動学ゲームのNash均衡解および二つのStackelberg解の間の厚生水準の比較結果の「一般性」に関わる検討を続けることである。その上で、第二に、動学ゲームを用いて分析できる「共有地の悲劇」の可能性に対して、効用関数の形がどのような影響を及ぼすかを検討する。今年度の研究に用いた効用関数には「利他性」が含まれていなかったため、今後の研究では「利他性」をどのようにして取り入れるかが大きな課題になる。利他的効用関数にはいまだ「定番」がないと思われるため、本研究でどのような関数を提示できるかが焦点になる。
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Research Products
(4 results)